- 発光デバイスと受光デバイス
- 光る半導体と光らない半導体
- 光の吸収
- 受光デバイス(フォトダイオード)
- 発光デバイス(発光ダイオードと半導体レーザー)
- 活性層の改良
- レーザーの構造
- 誘導放出
- 半導体レーザー
- ダブルヘテロ(DH)レーザー開発史
- DH構造や量子井戸構造を作製するナノテクノロジー
- 電荷結合デバイス(CCD)
- 様々な波長
- 最後に一言
- 参考文献
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これまで学んだ半導体デバイスとは、pn接合であるダイオードの整流作用(電流を一方方向にしか流さない特性)、pnp型やnpn型であるトランジスタの増幅作用(電流と電圧を増幅させる特性)とスイッチング(オンとオフを利用したスイッチとしての特性)でした。これらは電流を制御するのに役立ちます。
これから学ぶのは半導体と光の関係です。光を受光したり、発光したりする半導体の特性について学びます。前者を受光デバイスと呼び、光を電気に変えます(光電変換と呼ばれます)。後者を発光デバイスと呼び、電気を光に変えます(電光変換と呼ばれます)。このように光を扱うデバイスのことを光デバイスと呼びます。光デバイスには以下のものが挙げられます。
- フォトダイオード
- 発光ダイオード
- 半導体レーザー
- CCD(電荷結合素子)
これらを順に理解することで光と半導体の関係を理解し、それが現代にどのように関わっているのかを理解していきましょう。
光デバイスの需要は年々大きくなっており、当然商業的な立場でも重要な部分になります。例えば、発光ダイオードは携帯のボタンを光らせたり、液晶画面の裏側でバックライトの光源として働いたりしています。渋谷や新宿の巨大なディスプレイを光らせているのも発光ダイオードです。半導体レーザーは身近なところではDVDプレーヤーやCDプレーヤーでディスクの情報を読み出すのに使用されています。また、光通信の主要な光源としても活躍しています。
光通信は現在の情報通信を支える重要な分野の1つです。NTTや各種電話会社の通信網は光ファイバーで繋がっています。その光ファイバーを伝わる光信号の光源として半導体レーザーが使用されています。光ファイバーを伝わる光の信号があるときを1、ないときを0として扱います。前講の2進法の話を思い出してください(コンピューターはデジタル情報しか理解できません)。つまり、この1、0の情報をたくさん載せられるほど情報量が多いということになります。例えば、1秒間に109個の情報を載せられるとき、これを1Gbit(bit : ビット)と表現します。この光通信の容量は数年ごとに更新されて、光通信の開発メーカーはその開発に躍起になっています。
この光ファイバーに使用される光の波長は主に1.55μmと1.3μmです。これは赤外光と呼ばれる領域の光です。人間の目に見えるのは可視光線です。以下の図はその光の波長の関係図を表しています。

赤外光は可視光に比べて波長が長い光ということが分かります。しかし、どうしてこのような波長が使われるかというと、光ファイバーの中でこれらの波長の光が最も遠くへ届く光だからです。以下の図を見てください。

引用URL : https://optipedia.info/laser/fiberlaser/loss-1/
上図は横軸が光の波長の大きさを表します。縦軸は光吸収を表します(上に行くほど損失が大きく、下に行くほど損失は少ないということになります)。光の損失が少ない波長を使いたいので波長は1.3μmや1.55μmの波長が使用されるということになります。1.4μmの光が光通信に向かないのは上図を見てわかる通り(ピークの部分)、不純物による光吸収が行われて損失が大きくなるからです。そのため適していないということになります。そして、1.55μm付近の波長が最も光の損失が少ないことが分かります。他の波長だと光の損失が大きいため途中で何度も光を中継する必要があります。
光ファイバーの開発の歴史では、波長1.3μmで光吸収の少ない光ファイバーがまず開発されました。その後、光通信が普及していくとともに、改良されて1.55μm付近で最も損失が少ない光ファイバーが開発されました。
上図の損失の影響を語っている赤字と青字について少しだけ述べておく。赤字(Infrared absorption)は赤外光を物質(分子)に照射すると赤外光のある波長域がその物質に吸収されることを意味しています。光を吸収した分子は吸収前より大きなエネルギーを持ちます。青字(Rayleigh scattering)はレイリー散乱と呼ばれるもので光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱です。なので、波長が短くなるほどレイリー散乱は大きくなります(日中、空が青く見えるのも、波長の短い青色の光が沢山空気中の粒子と散乱をしているからです)。
これ以上深く語ろうと思うと、色々なことを話さなければいけないので切り上げますが、光の波長によって、散乱や吸収や透過が行われ、光通信に使う光の波長として最適なものが1.55μmの波長のものだということが現段階でわかっているということです。
発光は伝導帯にある自由電子が価電子帯へ遷移(移動)するときに起こります。つまり、エネルギーの高いところにある電子が一部のエネルギーを光として放出して価電子帯へ遷移します。この光が発光です。イメージとしては以下の図に見てください。

しかし、第1講で述べたように、発光デバイスとして使える半導体と使えない半導体があります。代表的なシリコン(真性)半導体は発光には使えません。そして化合物半導体であるGaAs半導体は発光デバイスとして使えます。まずはその理由を学びましょう。
なぜ使えないかと言うと、その理由は電子と光のエネルギーと運動量にその秘密があります。まずはシリコン半導体の運動量とエネルギーの関係図を以下に図示します。

シリコン半導体の特徴は価電子帯と伝導帯の頂点と底の運動量の位置が違うということです。これがシリコン半導体では発光が難しい理由です。
では、なぜ難しいのかを理解するために今度は光の運動量とエネルギーの関係を見ていきます。伝導帯にいる電子が価電子帯に落ちる際に発光は起こります。このとき、エネルギー保存則と運動量保存則の両方を満たす必要があります。つまり、電子が伝導帯にいるときに持っていたエネルギーの一部を放出して価電子帯へ行きますが、このとき運動量も重要な役割を持っているというわけです。このことを理解するためには光の運動量とエネルギーの関係を数式的に知っておく必要があります。量子力学では、
$$E=プランク定数×振動数=h\nu =\frac{hc}{\lambda}$$
$$p=\frac{プランク定数}{2π}×波数(\frac{2π}{\lambda})$$
$$\hbar k=\frac{h}{\lambda}$$
と書けます。この2式より、エネルギーと運動量の関係が見えます。つまり、
$$E=cp$$
と書けます。この数式における\(c=3.0×10^8 \) m/sは光速です。光速を超える速度を持つものはありません。ものすごく大きい値の定数ということです。ちなみに、光は1秒間に約30万km進むので地球を1秒間の間に7周半します。なので、エネルギーと運動量を変数として考えたとき、ものすごく比例定数の大きな直線ということになります。これを以下に図示します。

光のエネルギーと運動量の関係を理解できたところで、化合物半導体であるGaAsのエネルギーと運動量の関係を見ていきます。それが以下の図です。

上図からは、価電子帯と伝導帯の頂上と底の運動量がほとんど同じ位置にあることが分かります。つまり、電子は微小な運動量ΔpでエネルギーΔEを外に放出して価電子帯へと遷移することができます。このとき、微小な運動量ΔpでエネルギーΔEを持つのが光でした。それが右側です。つまり、電子の一部のエネルギーを光として外部に変換が出来るということです。このように電子は伝導帯の底から価電子帯の頂上へ直接移動できる半導体を直接遷移型半導体と呼びます。
では再度、シリコン半導体(真性半導体)も見ていきましょう。それが以下の図です。

なぜ発光しないのかはもう理解できたと思います。伝導帯の底から価電子帯の頂上への遷移で運動量の違いは大きいため、この条件を満たす光が存在しないからです。つまり、シリコンは光らないということになります。
このような理由からシリコンはトランジスタには使われていますが、発光ダイオードやレーザーのような発光する素子の材料としては使えないのです。
伝導帯の底と価電子帯の頂上との間の電子の遷移には格子振動など別の物理現象の助けを必要とするので、間接遷移型半導体と呼ばれます。格子振動とは結晶では原子が格子状に規則的に並んでいますが、その原子の振動のことです。端的にいうと熱です。これは物性物理学を真面目にやる必要があるので、初心者向けのこのコースでは語らないことにします。
我々が持っている携帯電話ないしスマートフォンが光るのは発光ダイオードの素子が入っているからです。発光ダイオードの中にはIII-V族の化合物半導体が使われています。これで光る半導体の特徴が分かりました。
これまでをまとめると、
- 直接遷移型半導体・・・光る
- 間接遷移型半導体・・・光らない
というものでした。
これは伝導帯にある電子が価電子帯に遷移するときに着眼した話です。では、価電子帯にある電子がエネルギーを外部からエネルギーを受け取って伝導帯へと遷移する話を次は理解しましょう。
基本的な原理は発光の場合と同じです。直接遷移型半導体の半導体は電子を遷移させるための光が存在するのでその光のエネルギーを受け取ります。つまり、光を吸収しています。
間接遷移型半導体であるシリコンではそのようなことが不可能に見えますが、実は可能なのです。つまり、シリコンでもエネルギー保存則と運動量保存則を満たすほぼ垂直な遷移の光吸収はあります。下図だとA→Bの部分に該当します。なぜ、発光は出来なくて受光は出来るのか不思議に思う方もいるかもしれません。その理由は、電子は安定なところから溜まっていくため、伝導帯の放物線では伝導帯の底付近に電子が溜まっています。そのため、B地点に電子が存在することは滅多にありません。そのため、BからAに遷移するということもめったにありません。一方で価電子帯にいる電子が伝導帯へ移動する際は、伝導帯の底に沢山電子がおり、B地点には電子がいません。なので、直接遷移に必要な光さえ与えてやればB地点へ遷移することが可能です。もちろん、電子は安定なエネルギーへと落ち着こうとするので伝導帯の底の電子が少なくなればB地点に存在する電子がC地点に行くこともあります。

しかし、シリコンではA→Cを繋ぐような光は存在しないので、格子振動などの別の物理現象が絡んで間接的な遷移が起こるものと考えられています。
この間接遷移の光吸収は、直接遷移に比べて効率が悪いので、受光デバイスの用途によってはこの間接遷移の吸収も利用されています。
受光デバイスの代表はフォトダイオードです。フォトダイオードは、pn接合の間に真性半導体を挟んだ構造になっています。真性半導体とは、第1構で説明したドーピングのしていない半導体のことです。シリコン半導体とか、ゲルマニウム半導体のことです。英語では真性をintrinsicということから、pn接合の間にintrinsicが入るので、pin型と書いてピンフォトダイオードと呼びます。以下はバンド構造の図になります。

フォトダイオードでは通常のダイオードの使い方とは違い、逆バイアスを掛けて元の電位差より大きい電位差を作って使います。つまり、p型半導体とn型半導体の間にある真性半導体の領域には元の拡散電位より大きな電場(電界)がかかっていることになります。詳しくは上図を見てください。ここにバンドギャップより大きなエネルギーを持つ光が入ることで、電子とホール対ができます。価電子帯にいる電子が光のエネルギーを貰って伝導帯へと行きます。そのときに、価電子帯にいる電子が抜けるので穴が出来ます。つまり、その穴がホールです。このようにして、電子-ホール対ができるということです。そして、電子とホールはそれぞれの電場(電界)により、n型とp型半導体へ流れるので電流が発生します。光が強いほど、電子とホールは沢山生成されて、沢山電流が流れます。これがフォトダイオードの原理です。
フォトダイオードの製品カタログでは、かけることが出来る最大の逆バイアスの電圧値が載っています。これ以上かけると、壊れてしまいます。
しかし、実際のところでは、真性半導体領域以外のp型とn型半導体のところでも光が入ると電子-ホールが発生します。ただ、p型やn型では電場がかかっていない。つまり、発生した電子-ホールがすぐには流れないので電流は流れません。電場がかかっているのは上図だと曲がっている部分です。電子の場合だと滑り台のイメージです。ホールの場合だと重力が逆方向に考えた滑り台だと思ってください。
したがって、応答の速いフォトダイオードにするためには、真性半導体領域で電子-ホール対を作る必要があります。実物は以下のような写真になります。浜松フォトニクスは半導体を扱う研究に携わっている人なら聞いたことがあると思います。そのくらい業界では有名です。私も素粒子物理学実験にて浜松フォトニクス製のセンサーを使用していました。

引用URL : https://www.hamamatsu.com/jp/ja/product/type/S5971/index.html
フォトダイオードの構造を理解しましょう。実際の構造は表面側のp型(あるいはn型)を薄くして、表面から入った光の多くが真性半導体領域で吸収されるような構造にします。光が表面を突き抜けることで驚かないでください。光は波長によって、その物質を透過したり散乱したり反射したりします。以下はpin型フォトダイオードの構造図になります。

フォトダイオードの身近な例にはテレビのリモコンがあります。テレビのリモコンの信号を受けるのは、テレビの本体に埋め込まれたフォトダイオードです。リモコンの光は赤外線(目に見えるのは可視光)なので目には見えません。フォトダイオードがその赤外光を受けて信号に変換しています。
シリコンのバンドギャップエネルギーは1.1eVです。バンドギャップは伝導帯の底から価電子帯の頂上だと思ってください。このバンドギャップエネルギーは光の波長に換算すると1.1μmに相当します。これは人間の目には見えない0.7μmより長い波長の光です。
テレビのリモコンが発光ダイオードを使っていることを確認することは可能です。もちろん、赤外光なので目には見えません。そこで、リモコンの先端部分をカメラ越しに見てください。私もスマートフォンのカメラを使ってみました。人間の目には可視光までしか認識する能力はありません。しかし、カメラにはそれを認識する能力はあります。大体の家電製品は赤外光を使って動かします。テレビのリモコン、エアコンのリモコン、いろいろあります。スマートフォンにもその能力が備わっているということです。光を電気信号にしてやり取りしている訳ですから、スマホのセンサーが赤外領域の光を感知してそれをカメラを通して映像にするのは何ら不思議なことではないのです。
発光デバイスの代表は、発光ダイオードと半導体レーザーがあります。ここでは光る半導体が主役なので、シリコン半導体の出る幕ではありません。シリコンは受光素子として使えますが発光素子としては使えません。ということで、主役はIII-V族化合物半導体になります。
発光デバイスのもっとも重要な部分は電気を光に変えるところで、これを活性層と呼びます。初期の発光ダイオードの活性層にはpn接合が使われていました。
pn接合の話を思い出してください。第3講くらいの話でやったと思います。p型半導体とn型半導体を合わせると空乏層が出来ます。以下の画像を参照してください。

そして、順方向バイアスをかけたとき、n型半導体から電子を流し込むことができ、p型半導体からホールを流し込めます。空乏層で電子とホールが出会うことで発光が起きます。電子は価電子帯のホールの位置に入り、ホールは消滅します。その際、伝導帯から価電子帯のエネルギーに遷移するとき、電子はエネルギーの一部を光として放出します。これが発光です。

上図はこれまで行ったことを図にしたものです。
単純なpn接合では発光の効率はよくありません。その理由としては、
- 再結合しないでn型からp型へ流れてしまう電子
- 再結合しないでp型からn型へ流れてしますホール
というものがあるからです。
第4講で読んだ通り、再結合せずに上記のように移動することを少数キャリアの注入と呼びました。これらのキャリアは発光に寄与しません。なので発光デバイスとしてpn接合を使う際には無駄になります。
空乏層を広くすれば、再結合しやすくなると考えたくなりますが、そんな簡単な話ではありません。幅を広くするとn型半導体から流れ込む電子とp型半導体から流れ込むホールが出会う確率が低くなるからです。
これらの欠点の解消方法は、バンド構造に落とし穴を作ることです。下図のように落とし穴を作れば、遷移に必要なエネルギーが小さくなるので移動しやすいということです。

落とし穴の幅は空乏層より狭くします。電子とホールはエネルギーの小さい子の落とし穴に落ちるので、空乏層を超えて流れてしまう電流も大幅に減少します。つまり、再結合する電子とホールが増えて発光の効率がよくなります。
しかし、このようにバンドギャップに穴を作るのは大変難しいです。なぜかというと、この穴のところだけバンドギャップの小さい異種の半導体を使う必要があるからです。この異種の半導体を挟み込んだ構造を作るにはMBEやMOVIDと呼ばれる結晶成長が必要です。これは後に解説を行います。
落とし穴の境目のところは異種の半導体が接した構造になります。これをヘテロ接合とかヘテロ界面と呼びます。ヘテロとは「異種の」という意味です。落とし穴を作るために2つのヘテロ接合が必要です。なのでこれをダブルヘテロ(Double Hetero)構造と呼びます。発光デバイスのカタログなどにはDHと略して書かれている場合があります。
ダブルヘテロ構造のお陰で発光の効率は10倍以上改善された。なので、劇的な進歩です。
では次に半導体レーザーの説明に進みます。以下は、実際に使われている製品です。

引用URL : https://www.hamamatsu.com/jp/ja/product/lasers/semiconductor-lasers/index.html
レーザーは20世紀後半の最も重要な発明の1つです。そして、半導体レーザーと発光ダイオードの大きな違いは共振器の有無です。
- 半導体レーザー・・・共振器がある。
- 発光ダイオード・・・共振器がない。
楽器の世界にも共振器はあります。名前は共振ではなく、共鳴と呼ばれますが原理は同じです。バイオリンやギターなどの弦楽器には、弦を振動させて、弦が振動している近くには穴の開いた木箱があります。バイオリンやギターではこれが共振器(共鳴させる装置)です。この箱があるお陰で音を反響させて響かせることができます(中学の共鳴の実験でも木箱とY字のものを使用して共鳴という現象を確かめたと思います)。つまり、共振も共鳴も外部から振動を与えて大きな振動を作るという役割があると思ってください。
- 音の世界・・・共鳴と呼ばれる(例 : バイオリンなどで音が反響する)
- 光の世界・・・共振と呼ばれる(例 : 半導体レーザーで指向性のあるレーザーが作れる)
さて、共振の意味が分かったところで、共振器の簡単なモデルを理解しましょう。まずは2枚の鏡を考えてみてください。

上図のように反射率100%の鏡を2枚使って、垂直になるように光を照射するとそれは反射して向こうの鏡へ向かい、また同じように反射する。このように永遠に往復することになります。このとき、鏡間の距離\(L\)を光の半波長の整数倍に置いてやると、光は強め合います(音なら強まると共鳴して反響します)。もし、光の半波長の整数倍に鏡間の距離をセットできないなら、光は打ち消しあってしまいます。
では次に100%の反射率の鏡ではない場合を考えましょう。片方が100%の反射率の鏡を使って、もう片方は80%の反射率の鏡を使ってみましょう。そうすると20%は鏡を透過していきます。つまり、20%の光は外に放出しているということです。この状況を考えれば徐々に発光はなくなっていきます。なので外部に放出しながらも、光を発光させ続けたいなら何かしらの手を打たなければいけません。
そのため、鏡間で80%の反射で戻ってきた光を出て行った分の光より強く発光させる必要があります。ここで鏡間に発光体を設置します。この発光体は同じ波長の光を作る装置です。そして出て行った分の20%の光よりも多くの光を作ります。そうすることで、光を外部に放出しながらも、発光させ続けることができます。これが以下の図になります。

ざっくりとしたレーザーの原理を理解できたところで次は誘導放出というものを理解しましょう。誘導放出とは上図だと発光体の部分に該当します。つまり、どうやって光を出し続けるかというところです。
音の場合の話に戻します。ギターだと、穴の開いた木箱の上で弦をかき鳴らします。しかし、やがて音は終わります。音を出し続けるには、弦をかき鳴らし続けないといけません。
さて、光の話に戻しましょう。発光体について考えます。発光体から出た光は、鏡で反射されるとそのまま戻ってきて発光体の中を通過します。このとき、光が吸収されたり、散乱されたりして弱まってしまうようでは困ります。なぜなら光が弱まって、すぐにレーザーの共振はストップしてしまうからです。なので、光を吸収する材料を使ってはいけません。
ここで物理的に興味深い誘導放出という現象を用います。誘導放出は、アインシュタインが1917年に理論的に導いた発光現象です。
発光は伝導帯にある電子が価電子帯へ遷移するときに起こります。エネルギーの一部を光として放出して、価電子帯へと落ち着くのです。
誘導放出とは、光を照射して価電子帯にある電子を伝導体へと持っていき、それに誘発されて伝導帯にある電子は価電子帯へと遷移し、その際に光を発光させるというものです。つまり、光を発光させるサイクルを人為的に作るということです。そして光を照射して光を発光させるというものです。
自然界ではエネルギーは安定した方へ行こうとします。例えば、カップラーメンでお湯を入れれば、お湯は室温まで熱(エネルギー)が低くなるように移行します。同じように、エネルギーの高いところにある電子は低いところへ集まろうとします。したがって、エネルギーの高いところに電子を置いてやれば、その少し低いエネルギーのところにある電子が発光すると、その空いたところに電子が埋まります。これを以下のように図示します。光を照射して価電子帯から伝導帯の少し高いエネルギーのところへ持っていくことをボンピングと呼びます。電子を連続的に上へくみ上げることが出来れば、発光体が光り続けることが可能です。

電子を人工的に上にあげる方法は2種類あります。
- 光を照射して電子を上にあげる方法
- 半導体のpn接合を使う方法(半導体レーザーではこちらが使われている)
1つの方法は上図の通りです。世界で最初のレーザーはアメリカのメイマンによって作られました。メイマンは、発光体にルビーを使いました。ルビーの結晶の中の3つの異なるエネルギーを利用したのです。上図のように。
2つ目の方法はpn接合を使う方法です。発光はこれまでやった通り以下の図のように行われます。

pn接合を用いた方法ではボンピング(光の照射)をする必要はありません。電気を流すだけで発光させることができます。こちらは半導体レーザーに使われている方法です。DVDやCD、レーザーポインターなどに使われているレーザーの中身はこの半導体を使ったレーザーです。
この発光体を先ほどの鏡と鏡の間に入れて、ポンピングする。上のエネルギーのところにある電子のいくつかが落ちて、普通の発光をします。次に発光した光が鏡に反射して発光体へ戻ってきます。発光体に光が入ると誘導放出が起こり、さらに強い光が出ます。これが繰り返し行われます。これがレーザーの原理です。発光体に光が通過すると、誘導放出により光は強くなる。この発光体を利得(ゲイン)媒質と呼びます。
もちろん右側と左側の鏡の反射率を100%(透過率を0%)にすると、レーザー光を利用することはできません。なので、どちらかの鏡の透過率を数%から数十%にして光の一部を透過させるようにします。この外に取り出されたレーザー光を我々は利用しています。この光は決して広がったりはしません。向かい合った2つの鏡によって拡がりを持たないように光を強め合っています。これを「指向性が高い」と表現します。モデルガンのレーザーポインターも指向性が高いものだということがわかります。
1967年に月面に着陸したアポロ11号は、月面に反射鏡を設置しました。これに、地球からレーザー光線を照射し、その月の反射光によって、月との距離が正確に測定できるようになりました。極めて指向性の高いレーザー光を使ったので、地球と月を往復する光が捕らえられたのです。
半導体レーザーではダブルヘテロ構造などのpn接合に電気を流して発光させます。このpn接合がゲイン媒質です。共振器は半導体の両端を割ったり削ったりすることで作ります。半導体結晶を割る方法を劈開(へきかい)と呼びます。劈開とは原子のある面に沿って割ることを意味します。難しい漢字です。
レーザーに使われる半導体はきれいな結晶構造で作られているので結晶の面に沿って割れやすいという特徴があります。第1講で見た通り、結晶を作るというのはかなり人為的に手を加えます(特にシリコンとか)。半導体の種類によって鏡を作りたい面と劈開面が一致しない場合もあります。そういう場合は化学反応を使って削る方法があります。それをエッチングと呼びます。エッチングには溶液を使う場合とガスを使う場合があります。
- ウェットエッチング・・・エッチングに溶液を使う場合の呼び方
- ドライエッチング ・・・エッチングにガスを使う場合の呼び方
半導体と空気の境界の反射率はおよそ25~30%くらいです。この反射率でレーザー発振が起こり、目的の用途を満たせる場合はこのまま用います。反射率を上げる必要がある場合、誘電体多層膜と呼ばれる鏡を蒸着します。
屈折率の異なる2つの媒質の界面に垂直に光を入射させたときの反射率\(R\)は、
$$R=(\frac{n_1-n_2}{n_1+n_2})^2$$
となります。これは電磁気学で導かれる関係です。いつか電磁気学をやる際に紹介します。
$$(\frac{屈折率の引き算}{屈折率の足し算})^2$$
という覚え方をしておくといいと思います。重要な式なのですぐに思い出せると楽です。
屈折率は真空中の屈折率が基準になっており、それは真空中の屈折率は1と定義されています。
屈折率が生じるのは、光(電磁波)と媒質との相互作用によって生じます。空気は酸素や窒素の気体からなり、単位体積あたりの原子や分子の数も少ないので、相互作用は小さく、屈折率はほとんど1とみなして問題ありません。ちにみに空気の質量は約0.29gです(空気は肉と覚えておくといいと思います)。ガラスの屈折率は1.5、ダイヤモンドの屈折は2.4くらいです。この高い屈折率がダイヤモンドの魅力の1つとなっています。反射率がガラスよりも高く輝くというわけです。半導体の屈折率は3くらいです。したがって半導体と空気の間の反射率はおおよそ
$$R=(\frac{3-1}{3+1})^2=\frac{1}{4}=25%$$
ということになります。面白いのはダイヤモンドより半導体の方が屈折率が大きいのに、半導体はダイヤモンドより光らないということです。これは人間の目に見える光の波長では、ほとんどの半導体は光を吸収するからです。したがって、ダイヤモンドのように光らないのです。光は反射、屈折、透過、吸収と考えることが沢山あります。
レーザー開発史と聞けば、軍事用途、半導体、冷戦という言葉が浮かぶと思います。そして、アメリカやソ連が連想されます。
最初の半導体レーザーはGaAsのpn接合を用いたもので1962年にレーザー発振に成功しました。しかし、液体窒素中という極低温でないと動作しません。また、発振も連続的に光が出るのではなく、断続的なパルス状に光るものでした。
この冷やさないと使えないというのは、用途が大きく制限されます。
ダブルヘテロ構造を使った半導体レーザーを開発し、室温での連続発振に成功したのは、ソ連のアルフェロフと、日本の林厳雄、アメリカのパニッシュらでした。アルフェロフはソ連のヨッフェ研究所で、林とパニッシュはアメリカのベル研究所で独立にDHレーザーの開発に成功しました。2000年にアルフェロフはノーベル物理学賞を受賞しました。ちなみに、アルフェロフの方が数ヶ月論文が発表されました。しかし、西側の研究者の間では林、パニッシュの論文の方がアルフェロフの論文より有名です。
半導体レーザーが室温で光るようになったことは大きな進歩でした。現在では、光通信を始めとして至る所で半導体レーザーが活躍しています。
ダブルヘテロ構造が発光ダイオードや半導体レーザーに革新をもたらしました。技術はさらに進歩し、量子井戸構造が次に出てきました。それを以下の図で確認をしましょう。

多重量子井戸構造が発光の効率を上げていることは上図からイメージが付きます。キャリアが沢山あればそれらが落とし穴に入って、再結合の効率を上げているのがわかります。多数個重ねて使う場合は、多重量子井戸と呼びます。英語では、Multiple Quantum Wellsと書き、MQWと略されます。メーカーのカタログにMQWと出てくれば、この構造のことをさします。
ではダブルヘテロ構造と量子井戸構造の違いを見ていきましょう。見た目だけは同じですが、量子井戸は井戸の幅が10nmと大変狭くなっています。この幅を狭くすると、状態密度の形が変わります。次にこの意味について話していきます。これがわかれば量子井戸のメリットも理解したと言えるでしょう。
量子井戸では状態密度の形が変わるといいました。これにより、ダブルヘテロ構造よりさらに小さな電流でも効率的に発光が起こるようになります。第2講でバルクの状態密度が\(\sqrt{E}\)に比例することを学びました。
フェルミ-ディラック分布(存在確率)と状態密度のかけ算でキャリアの分布が決まります。このときスペクトルの幅はキャリアの分布の幅で決まり下図のような幅になります(あまりいい図とは言えないので、参考文献を参照することをお勧めします)。

量子井戸では、電子は井戸の中の平面上の面内(2次元)しか移動できないので、状態密度の数え方は2講で話した以下の図に対応します。また上図では量子井戸の発光強度がずば抜けていますがこれは絵心がないせいなので、参考文献を参照することを進めます。発光スペクトルのエネルギー幅(=\(E_S-E_L\))は、電子とホールのエネルギー分布の幅で決まります。
量子井戸の状態密度は上図のように階段の関数(ステップ関数)になるために、この電子とホールのエネルギー分布の幅が小さくなります。以上より、発光の半値幅(光の強度がピークの半分になったときの幅)も狭くなります。

以下は電子密度の比較の図です。

まとめると、
- バルクと量子井戸では状態密度が異なる
- 量子井戸では状態密度は階段関数なので、エネルギー幅ΔEがバルクの方大きい(上図)
- エネルギー幅が大きいと電子とホールの発光スペクトルのエネルギー幅\(E_L-E_S\)も大きくなる
- つまり発光強度と発光エネルギーの関係のグラフを書いたとき、量子井戸の方が発光の半値幅が狭くなる
- 発光の半値幅が狭い方が効果的に誘導放出が起こせる
- これはわずかな電流でレーザー発振が起こせることを意味する
であるが、いまいち私も疑問に残っていることがあるので、また他のテキストで学びなおすことにする。
ここで知っておいて欲しいことは、レーザーでは半値幅が狭いほど効果的に誘導放出が起こるということです。これにより、僅かな電流値でレーザー発振が起こります。つまり、同じ強さの光が出せるなら、電流値が小さい方が有利です。このため、量子井戸レーザーは広く使われている。会議のプレゼンテーションではレーザーポインタがよく使われていますが、これが量子井戸レーザーの身近な例です。
飛躍的に効率が上がったので、乾電池でも十分なレーザー発振が得られるようになったことを意味します(少量の電流で効果的に誘導放出を起こせる)。量子井戸レーザーはDVDやCD、光通信にも使われています。
DH構造や量子井戸構造の仕組みが分かったところで、その作り方を見ていく。
この構造を作るために、異なる種類の半導体を接合させる技術が必要です。
この技術が不十分だと、接合部分に余分な不純物が入ってたり、結晶に配列されている原子が規則的でなかったりすると、電流を流したときに望ましくない挙動をしめす可能性がある。発光デバイスが動作しなかったり、動いてもすぐ寿命が無くなったりします。故にヘテロ接合で電流がきれいに流れるためには、原子がきれいに並んでいる必要があります。
1講で紹介したチョクラルスキー法のような結晶成長方法では、異種の半導体の界面を作るのは不可能でした。
この難しい課題を解決したのは、
- 分子線エピタキシー法(MBE : Molecular Beam Epitaxy)
- 有機金属気相成長法(MOCVD : Metal Organic Chemical Vapor Deposition)
です。エピタキシーとは、結晶が原子レベルで綺麗に並んでいることを意味します。
分子線エピタキシー法(MBE)は、1960年代後半にベル電話研究所のアーサーとチョーによって開発された結晶成長方法です。ざっくりというと、蒸着装置の高性能バージョンです。ただし、半導体のヘテロ接合を作る場合に溶かして飛ばすのは、In、Ga、Asです。これらをるつぼに入れて溶かします。以下はその図です。

るつぼに入れて溶かすと、温度が高い状況では、金属が気体になって分子となり飛び出します。それが、半導体のところで到着すると結晶成長が起こって、GaAsやAlGaAsが成長できます。
このとき分子を汚染させることなく(不純物が混ざらないなど)半導体の表面に届かせるために、極めて高い真空度(\(10^{-8}\)が必要です。通常の蒸着装置よりも100万分の1の真空度が必要なので、かなり真空度が高い真空装置が必要とされます。
半導体の表面で化学反応を起こして、結晶が成長します。半導体基板の表面は、化学反応に適切な高温である必要があります。その温度は通常500から600℃くらいです。以下は製品のカタログの写真です。気になる方はURLを辿れば、他のMBEの製品についても見れます。

引用URL : https://www.1974eiko.co.jp/category/product/device01/
分子線エピタキシー法で量子井戸を成長させる場合を詳しく見ていく。量子井戸の部分がInGaAsで、そのまわりがGaAsであるとする。手順はシンプルです。上図を図を見ながら原理を再度理解しましょう。
- InGaAsの井戸が成長している間は、それぞれのるつぼの前にあるシャッターは全て開けておく。
- そうすると、In、Ga、Asのそれぞれの分子が真空中を飛んでウェハーの表面に到達します。
- ウェハーの表面では、この3つが組み合わさって、InGaAsの結晶が成長する。
- 次にGaAsを続けて成長させるために、Inのシャッターだけ閉じる。
- すると、GaとAsの分子だけ飛んで、GaAsが成長する。
- これに続いてInGaAsを成長させるために再びInのるつぼ前のシャッターを開ける。
この結晶成長は他の結晶成長に比べると極めて遅いです。1μmの厚さの結晶を成長するのに通常1時間かかります。もし、この方法で厚さ1mmの結晶を作ろうとすると1000時間(約42日)かかります。
一方、チョクラルスキー法では1mmの成長に1分程度ですむわけですから、それに比べるととても遅い結晶成長であることがわかります。
MBE法の成長速度が遅いという事実が、逆に高い精度で結晶界面の成長の切換えが制御できるという長所を生んでいます。ここにMBE法の面白さがあります。
1μm(1000nm)の成長に1時間(3600秒)かかることから、1秒では約0.3nm成長できます。この0.3nmという数字が重要になります。この数字は結晶の原子間の距離なのです。つまり、1秒間で原子1層分の成長をするということになります。
これはシャッターを1秒以内に開け閉めできれば、厚さ1原子層の成長の間に、InGaAsからGaAsの成長に切り替えることができることを意味します。
つまりMBE法では1原子層の精度で結晶の組織を変えることが出来ます。量子井戸の幅は、10nmですから、成長時間は30秒程度です。
10nmの厚さの量子井戸を成長させる場合の例として、
- 33秒間 GaAsを成長させる(約10nm成長)
- Inるつぼのシャッターを開く
- 33秒間 InGaAsを成長させる(約10nm成長)
- Inるつぼのシャッターと閉じる
- 33秒間 GaAsを成長させる(約10nm成長)
という感じで上手くサンドイッチのように作ることができます。
このように原子層レベル(ナノレベル)での高精度な結晶成長が可能なMBEですが、この研究は日本では一時期、危機を迎えました。1970年代半ばのことです。とはいっても、1970年代のイメージがわからないのでグーグルに聞いてみました。

1970年代の半ばごりに多くの電機メーカーがアメリカを追う形で研究を始めました。しかし、5年ほどすると、研究が打ち切られそうになりました。
理由としては、
- 当時の金額では結晶成長装置が1億円以上と高価なものであった。
- 結晶成長が極めて遅い。
- 高い真空度を維持しなければいけないので保守管理が大変である。
- 当時の半導体デバイスにはこの成長法の需要はなかった。
などが挙げられます。つまり、金と手間がかかる割に何に使えるのかがわからないという状況だったのです。今ではこうして光通信などの技術に応用されているので、金のなる木を枯らさなかったことがわかります。
この窮地を救ったのは富士通研究所の三村高志によるHEMTの発明でした。HEMTとは第5講でもお話ししました。化合物半導体のMOSトランジスタの回のときです。そしてトランジスタに大きな進歩をもたらしたのが、高電子移動度トランジスタHEMT(High Electron Mobility Transistor)です。HEMTは、極めて良好なヘテロ界面を必要としたからです。このヘテロ界面の作製には、富士通研究所のMBEグループを指揮する冷水佐壽が携わりました。冷水らは5年間の研究で結晶成長技術を確立しましたが、その用途に悩んでいました。研究所の強みは横の連携です。ベル研究所ではトランジスタの発明時に、高純度の半導体結晶成長技術を始めとして多くの関連技術が蓄積されていました。富士通研究所にMBE技術が確立されていなければ、三村の発明もリリエンフェルドのユニポーラトランジスタ(電界効果トランジスタ)と同じ運命をたどったかもしれません。ショックレーが電界効果トランジスタを思いついたとき、リリエンフェルドに特許化されていたのが電界効果トランジスタです。ちなみにリリエンフェルドは動作するトランジスタを作ったのではなく、アイデアでの特許を持っていました。動作するものを形にしたのはショックレーです。
話を戻します。三村・冷水らは、HEMTの作製に成功し、1980年6月にアメリカの国際会議で発表しました。移動度は当時の水準の3倍という画期的な値だったので、日本の技術を疑うような揶揄もありました。
HEMTは衛星放送の家庭用受信アンテナのアンプとして使われました。そしてアンテナの小型化にも貢献しました。この小型化されたパラボラアンテナは東ヨーロッパ諸国のアパートのベランダにも数多く取り付けられました。この多数のパラボラアンテナが西側のテレビ放送の受信を可能にし、ベルリンの壁の崩壊(1989年)が早まったとも言われています。
HEMTに続いて1980年代後半には、量子井戸を用いた発光ダイオードや量子井戸レーザーの生産も始まったので、MBEは広く活躍するようになりました。
MBEと並んで現在多用されているのが有機金属気相成長法(MOCVD)です。この方法とMBEの大きな違いは高い真空度を必要としないという点です。
例えば、GaAsを成長させる際にはトリメチルガリウムと呼ばれる有機金属とアルシン(AsH3)と呼ばれるヒ素と水素の化合物のガスを石英管の中で反応させます。トリとは3という意味です。なのでこの反応を化学式で書くと、
Ga(CH3)3 + AsH3 → GaAs + 3CH4
となります。GaAsが成長できるとともにメタンガス(CH4)も発生します。

上図を見ましょう。半導体基板の入った反応炉にこれらのガスを流して反応させます。AlGaAsを成長させるには、トリメチルアルミニウムも一緒に流します。GaAsの成長からAlGaAsの成長に切り替えるには原料ボンベのバルブ(弁)を開けばいいだけです。
MOCVDの利点は結晶成長の速度がMBEより数倍から10倍ほど速いことです。
ただし、結晶成長が速いのでヘテロ界面の切換えが難しいです。また、アルシンは毒性が強いガスなので、取り扱いに注意を要します。
精度ではMBEの方が優勢で、生産スピードではMOCVDの方が優勢です。なので量産を考えたときなどは後者が多くの企業で使われています。
カメラの話になるとほぼ確実にCCDという言葉が出てきます。この講で人間の目で認識できるのは可視光のみで、赤外光を認識できないと話しました。そしてスマートフォンのカメラを通せば、カメラからリモコンの赤外光が光っているのが分かりますというのを動画にしました。このとき、なぜスマホのカメラが認識できたかというと、カメラに搭載された受光素子が赤外光を認識して、それを電気信号として変換し画像に映し出したからです。そこに使われているのがCCDです。なのでデジタルカメラの目ともいえます。
CCDとはCharge Coupled Devicesの略で、日本語では電荷結合デバイスと呼ばれます。CCDの主な働きは電荷を隣にバケツリレーのように送っていくことにあります。CCDは、
- 受光素子として使う場合
- 多数のフォトダイオードを一緒に組み込むことによってCCDに信号の転送だけを受け持たせる場合
の2通りの使い方があります。
CCDの基本的な構図は以下の図です。

MOS構造を使ったキャパシタ(コンデンサー)を近接して配列させてものです。上図は3つの隣接するMOSキャパシタでの動作の様子を示している。CCDでは隣接する電極に順番に強いプラスの電圧をかけることによって、電子を引きつけて移動させます。
直感的な理解としては、大きなプラス電荷がかかる場所にマイナスの電荷を持つ電子が強く引きつけられるという考え方もあります。
本質的な理解としては、CCDではSiO2とSiの境界にプラス電場(電界)を掛けることによって反転層が生じます。忘れた方は第5講を参照してください。この反転層内に電子が溜まります。隣の電極に大きなプラスの電場(電界)をかけると、反転層が曲がり、エネルギーの低い隣の電極直下の反転層に電子が移動します。MOSキャパシタ同士を近接させているので、一方の電圧を低くすると電子が移動するので電荷結合という名称がついています。
以下の図を見てください。

上図は、素子に光が照射されると、フォトダイオードに光の強度に応じた量の電子が発生します。次に、これをすぐ隣のCCDへ移します。CCDに移した後は、順に電圧をかけて隣のMOSキャパシタへ転送させていきます。この電荷を順に読み出して映像信号として使います。
1024個(210個)のMOSキャパシタを縦横に作製すると、100万画素のCCDになります。CCDでは画素数が多いほど鮮明な画像が撮れます。
これでようやくカメラが赤外光を認識して画像に表示した原理がわかりました。そして、人間には不可能なこともわかりました。
発光ダイオードや半導体レーザーの波長と材料の関係を以下に図示する。

バンドギャップエネルギーを長波長側にずらすにはInのような周期表の下にある原子を混ぜます。第1項でこのような話をしたのを覚えていますか。
この化合物の組み合わせは周期表が下に行くほど、発光の波長が長くなり(赤色に近づく)、周期表の上側に行くほど波長が短くなる(青色に近づく)。なのでこの面白い特徴を活かせば新しい半導体を作ることが出来ます。

たとえば、GaAsにInを混ぜてInGaAsにすると1.3μmや1.55μmの発光が得られます。逆に、バンドギャップから短波長側にずらすためには周期表の上にある原子を混ぜればよいのです。たとえば、GaAsのAsをNに置き換えるとGaNとなり紫外線領域での発光になります。
青色の半導体の発見までのお話をします。見つけたのはなんと日本人です。
化合物半導体を用いた発光デバイスでは、赤や赤外線の発光は1960年代や70年代に得られていました。しかし、青から短波長を得るのは容易ではなく、1990年代に入っても青色発光デバイスは実用化されていませんでした。
この青の発光ダイオードと半導体レーザーへの応用に成功したのは、日亜化学工業の中村修二です。彼はInGaNを用いて青色発光を実現しました。InGaNのような窒化物半導体については、赤崎勇らが先駆的な業績をあげていましたが、研究者はごくわずかでした。中村によると1993年の青色発光ダイオードの開発の成功によって、窒化物半導体の研究者は爆発的に増えました。研究にはブームと言うものがあります。中村が発表する学会では会場に人が入りきらないくらい満杯だったそうです。96年には青色の半導体レーザーの開発にも成功しました。2000年にはカリフォルニア大学のサンタバーバラ校の教授に就任しました。その後は特許に関する裁判に巻き込まれました。詳しく調べればわかりますが、中村と日亜化学との争いです。ちなみに、彼は2005年にアメリカ国籍を取得しています。日本は二重国籍は不可能なのでアメリカ人ということです。こうして、貴重な人材がアメリカに渡って行ってしまったという解釈もできなくもないです。
私も外資系の会社に入社するときはその手の契約書に目を通すことがありました(以下のどの人物かに関わる会社)。なので、その手の裁判や争いはそれほど珍しくはありません。振り返れば、ショックレーとバーディーン、ブラッテンのトランジスタ特許出願時の争い。キルビーとノイスのIC特許に関するテキサスインスツルメンツ社とフェアチャイルド社の争い。レーザーの発明にはタウンズとグールドの特許紛争。大統領選でも日本と比べ物にならないくらい盛り上がります。なので、争いは日常茶飯事のようなイベントなのかもしれません。
ショックレーが新しいトランジスタの開発のためにベル研究所を去りました。そして中村も会社を去りました。ノイスもフェアチャイルド社を去り、インテルを設立しました。こんな皮肉はよくないかもしれませんが、波長が合わなかったのでしょう。
半導体レーザーの波長が短くなることによって恩恵を受けたのは光ディスクです。光を集光するとき、波長が短いほど、より狭い領域に集光できるという性質があります。波長が短くなると集光面積が小さくなるので、1枚のディスクに書き込める容量が大きくなります。
最初に広く普及した光ディスクは1982年に登場したCDです。CDの読み出しに使われている半導体レーザーの波長は780nmです。
さらに14年後の1996年に登場したDVDでは波長650nmの半導体レーザーが使われています。波長では1.2倍違うので、集光面積の差はその2乗の1.44倍違います。CDからDVDへの進歩では、この集光面積の改善以外にも、書き込み技術や情報圧縮技術の進歩がありました。その結果、1枚のディスク容量はCDの約700MBからDVDの4.7GB(片面単層)に約7倍の進歩を遂げました。
青色半導体レーザーの登場により、波長405nmの半導体レーザーを使えば、集光面積は従来のDVDの2.6分の1になります(650nm/405nmの2乗分の1)。この新しいDVDの開発と販売には、日本の東芝とソニーが中心になって取り組み、前者の規格がHD DVD、後者がBlu-rayと呼ばれています。両者とも2006年にプレーヤーの販売が始まりました。私も小学生のころでしたが、DVDの通常価格より2倍近く高かった気がします。当時ブルーレイを知らなかった私は小学生でした。数少ない軍資金のお年玉で見たい映画のディスクを取るとブルーレイでした。よく確認もせずに買ったせいで、家のPS2はブルーレイディスクを読み込まず大きなショックを受けたのを覚えています。映画のタイトルは「バイオハザード2」でした。仕方なく、ディスクの裏の写真で映画の展開を想像しました。話は戻り、他の書き込み技術の進歩にも助けられ、片面単層の光ディスクで15GBから25GBもの大容量を実現しています。
当然のことながら、もっと短い光の半導体レーザーが開発されたらDVDの容量はさらに増大するでしょう。光の世界での半導体の研究開発は次の世代の新製品を追って今も絶え間なく続いています。
ここで水を差すようですが、現代でDVDやCD、Blu-rayを手にする人のほとんどはアニメのグッズやアイドルのライブのチケット特典などがほとんどです。つまり、特典がなければ、これらのディスクを手にする人はほとんどいません。音楽ならばCDの代わりにインターネットを通じてダウンロードし、映画やアニメも同様にHuluやAmazonPrime、Netflixに入会して見る人がほとんどです。つまり、何が言いたいかと言うと、ハードウェアとソフトウェアの戦争が起きているということです。このようなことが起こると、その分野の研究者は減っていってしまします。なぜなら、ブームが変わりつつあるからです。
しかし、今回の半導体のことに関する学習は非常に楽しかったです。
この参考文献の読者の一人である私は、大学院生時代、半導体検出器というものを扱っていました。しかし、半導体というものを全く理解しておらず、すごく苦労しました。もしあの頃に戻れるならば、この参考文献を手に取るように勧めると思います。そのくらい素晴らしい本です。半導体について俯瞰的に理解することができます。
半導体のセクションとしては、これらの記事を根幹として、ブラッシュアップをしていこうと思います。次に読むならば「半導体デバイス―基礎理論とプロセス技術」の本が候補として挙げられます。私が大学院生時代のゼミの参考書でした。
楽しみながら引き続き読んではまとめる形でアウトプットしていこうと思います。
参考文献

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