- トランジスタから始まった面白い歴史
- 接合型トランジスタ(バイポーラトランジスタ)
- バイポーラトランジスタ増幅回路
- トランジスタの増幅以外の使い道
- トランジスタのスイッチング動作
- 遮断周波数と\(g_m\)
- 電界効果トランジスタ(ユニポーラトランジスタ)
- MOSトランジスタ(真性半導体)
- MOSトランジスタ(化合物半導体)
- 集積回路
- 参考文献
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第4講では、pn接合とショットキー接合について学んだ。pn接合は半導体同士の接合で、ショットキー接合は半導体と伝導体(金属)の接合です。これらの接合は整流作用という特性があります。この特性は電流を一方方向にのみ流すというものです。
このpn接合を組み合わせると(例えばpnpとかnpnなど)、電気信号も増幅できることが明らかになりました。これがトランジスタです。
ここでは少し歴史のお話をしようと思います。というのも、自分の勤め先も途中で登場するので、個人的な記録としても残しておくと面白いと思ったからです。
登場人物(主な関連)
- バーディーン(2度のノーベル物理学賞、点接触型トランジスタ、BCS理論)
- ブラッテン(ノーベル物理学賞受賞、点接触型トランジスタ)
- ショックレー(ノーベル物理学賞受賞、点接触型トランジスタ、接合型トランジスタ、シリコン・バレーの起源)
- ゴードン・ムーア(インテル設立、ムーアの法則)
- ロバート・ノイス(インテル設立、集積回路の発明)
- キルビー(ノーベル物理学賞受賞、集積回路の発明)
- シェリーファー(ノーベル物理学賞受賞、BCS理論)
- クーパー(ノーベル物理学賞受賞、BCS理論)
トランジスタの発明に関わったのはアメリカのベル電話研究所の研究者3人です。それぞれ、バーディーン、ブラッテン、ショックレーです。
第1講を読了済みの方は既に知っているかと思いますが、彼らは真空管に代わるものの開発に取り組んでいました。時代としては第二次世界大戦終戦後になります(ざっくりと話すので細かい時系列はご容赦ください)。
研究チームのリーダーはショックレーでしたが、当時の主な研究はバーディーンとブラッテンが行っていました。
結論から言うと、トランジスタの発明は成功して1948年に公表されました(もちろん、特許を取ってからの好評です)。これは点接触型トランジスタと呼ばれているものです。この段階のトランジスタには多くのデメリットがありました。作製が容易ではない、力学的に壊れやすい、量産に向いていないなどです。それでもトランジスタを発明したことは世紀の大発見です。
そして専門誌や記者会見が行われました。専門誌ではいつもブラッテンが使っている作業机の前に、ショックレーが座り、会見ではリーダーあるショックレーが質問に適切に答えていました。しかし、実際にはショックレーは直接実験には携わったことはありませんでした。バーディーンは「トランジスタの発明の際によく議論した理論物理学者は誰か」と記者から聞かれた際に「理論家とは議論していない、実験家とだけ議論した」と言ったのです。この中での理論家とは、ショックレー、バーディーン。実験家はブラッテンです。つまり、ショックレーと2人には溝があったということです。
ショックレーはトランジスタの開発を主導したという自負はありましたが、実験に直接的に貢献していないことも自覚していました。真空管に置き換わるものを8年かけて研究チームのリーダーとしては携わっていましたが、結局は2人が美味しいところを持っていたという感覚が強かったのでしょう。彼は点接触型トランジスタの発明直後から新たなトランジスタの考案に注力しました。そして1ヶ月後に接合型トランジスタのアイデアを発明しました(実現はしていない)。
最初の点接触型トランジスタでは、バーディーンとブラッテンはどうして増幅作用が起こるのか具体的な仕組みは理解していませんでした。しかし、この接合型トランジスタではショックレーはp型n型p型の電流の流れがトランジスタの本質だと見抜いていました。そして彼は接合型トランジスタこそが点接触型トランジスタにとって代わるものだという見通しもあったと考えられています。その証拠に、やがて新しく始まった接合型トランジスタの研究では、バーディーンとブラッテンを研究チームから外しました。
トランジスタの研究を続けられなくなったバーディーンは以前研究していた超伝導の研究に戻るためにベル研を去りました。今となっては超伝導も学生実験で行われるくらい極めて重要な分野です。超伝導は、極めて低温の状態になると、ある種の金属の抵抗がゼロになるという現象です。その当時はなぜ超伝導になるかは不明でした。
一方、ショックレーの研究は進み、1951年接合型トランジスタが実現されました。点接触型トランジスタは量産に苦しんでいたので、当然、接合型トランジスタに置き換わりました。
ショックレーの野望は膨らみ、やがて自分自身で研究所を作りたいと思うようになりました。彼は企業からの資金援助が得られると、自身が育ったカリフォルニアで1955年にショックレー半導体研究所を設立しました。これが後のシリコン・バレーの起源になりました。ショックレーは全米から優秀な人材を集めました。特に学会などで見つけた優秀な人材をリクルートしました。そして、約束の地としてシリコン・バレーを拓いたというわけです。
1956年に点接触型トランジスタ、接合型トランジスタの功績が認められ、ショックレー、バーディーン、ブラッテンの3人はノーベル物理学賞を受賞しました。賞金はこのとき均等に3分の1ずつでした。
順調にスタートしたかと見えたショックレー半導体研究所ですが、ショックレーと部下の対立は間もなく始まりました。なんとわずか1年で8人が去ってしまったのです。その中にはゴードン・ムーアとロバート・ノイスもいました。彼らは後にインテル社を設立して社長になりました。この2人について、軽く説明をすると、ノイスは集積回路の発明者としても有名です。集積回路の発明者としてキルビーが2000年にノーベル物理学賞を受賞しましたが、ノイスが生きていたら恐らく受賞対象者になったとも言われています。一方、ムーアはムーアの法則を提唱したことで有名です。半導体の集積度が2年ごとに2倍増えると唱えました。現在に至るまでに、集積回路上の半導体はムーアの法則に従っています。ムーア曰く、ショックレーは半導体の中の電子の動きを直感的に捉えることに優れてはいたが、人を動かすのは下手だったとのことです。ショックレー半導体研究所はやがて経営に行き詰りました。そして彼はスタンフォード大学に移りました。凡人の私からすれば、経営が行き詰ってスタンフォードのポストがあることに驚きましたけど 苦笑。ショックレーの研究所はミクロにみると失敗したという見方になりますが、マクロに見ればシリコン・バレーという世界の半導体産業の中枢を生み出したという見方もできます。
一方、バーディーンはイリノイ大学に移り、20代の助手クーパーと大学院生シェリーファーとともに、超伝導の謎を解く理論を作りました。それが人の頭文字をとったBCS理論と呼ばれるものです。物理学科の学生はみんな知っているくらい有名な理論です。バーディーンは接合型トランジスタの研究には外されましたが、結果的にBCS理論の立役者になりました。「人勧万事塞翁が馬」とはまさにこのことです。そして1972年に2度目のノーベル物理学賞を受賞しました。
ざっくりと書きましたが、これらの歴史からわかることは、研究と人間関係は物凄く密接に関わっているということです。なので、これから研究室を選ぼうと考えている方は特に前者ばかり注視しないように気をつけてくださいね。
我々がこれから理解するのは当然、点接触型トランジスタではなく、接合型トランジスタです。接合型トランジスタのことをバイポーラトランジスタと呼ぶこともあります。バイポーラとは双極性を意味しており、プラスとマイナスの2つの電荷が動作に関わっていることを意味しています。
考える手順は3つです。
- キャリアがどのように分布するか考える。
- 電流と電圧の関係について考える。
- トランジスタの2種類の動作、「増幅」と「スイッチング」について考える。
- アナログ動作・・・電流や電圧を増幅させる。
- デジタル動作・・・電流を流したり止めたり(スイッチ)するのにつかえる。
ステップ1と2同時に考えましょう。そのためにまずトランジスタの構造について知りましょう。以下の図はショックレーの1946年の特許明細書を基に作成したものです。バイポーラトランジスタはnpn型(キャリアは電子)とpnp型(キャリアはホール)があり、以下の図はnpn型バイポーラトランジスタになります。
左側のn型領域はエミッタ(発するところという意味)、右側のn型領域はコレクタ(集めるところという意味)です。つまり、電子において入り口がエミッタで出口がコレクタになります。
p型領域はベースと呼ばれるもので、ベースの幅はエミッタから入った電子が拡散によって横切れるくらい薄くなっています。
npn型トランジスタの電流、電圧の向きを逆にしたものがpnp型トランジスタになります。つまり、npn型トランジスタのプラスとマイナスを変えると、pnp型になるので、まずはnpn型トランジスタを理解しましょう。

トランジスタの表し方は上図以外にもあります。その別の表記法を学びましょう。それが以下の図です。

矢印があるのがエミッタです。この矢印の向きの違いが、npn型とpnp型のトランジスタの違いです。
矢印の向きは電流の向きです。電流は電子とは逆方向に流れます(電流はホールと同じ方向に流れる)。
トランジスタにはバイポーラトランジスタ以外に電界効果トランジスタというものもあります。これは後から紹介しますが、上図とは異なった記号です。ちなみに、工学系の人は電場のことを電界と呼び、物理系の人は電界のことを電場と呼びます。なので呼び方で戸惑わないようにしてください。
トランジスタの通常の動作を活性モードと呼びます。この活性モードではエミッタ(E)-ベース(B)間の電圧は順方向にバイアスがかかり、コレクタ(C)-ベース(B)間の電圧は逆方向バイアスがかかります。
ここでpn接合で順方向と逆方向にバイアスを掛けた場合の復習をしましょう。以下の図がそれになります。

つまり、npnトランジスタをnp型とpn型と分けて考えれば、np型に順方向バイアスを掛けるというのは上図の左側に該当し(拡散電流)、pn型に逆方向バイアスをかけるというのは上図の右側に該当します(ドリフト電流)。トランジスタには3つの端子があり、エミッタから電子が入ってそれがベースとコレクタから流れ出すので、
$$I_E=I_B+I_C・・・①$$
の関係があります。分解して考えれば、右辺の第1項を拡散電流、第2項をドリフト電流と考えることができます。以上からわかるとおり、3つの端子の電流の2つの端子分だけが独立しており、2つの端子の電流がわかれば残り1つの端子の電流も分かるということです。
npn型トランジスタに電圧をかけていない場合、エミッタ-ベース間に順方向電圧をかけた場合、ベース-コレクタ間に逆方向電圧をかけた場合をバンド図を使って理解しましょう。
npn型トランジスタに電圧をかけていない場合を以下に図示する。

第4講で学んだ通り、n型半導体の擬フェルミエネルギーは高く、p型半導体の擬フェルミエネルギーは低いです。半導体を接合して、npn接合を作ると、擬フェルミエネルギーが同じ値になるまでエネルギーレベルが変化します。このため、上図のようにp型半導体の底のエネルギーは周りのn型半導体の底より高くなります。このとき電流は流れません。
トランジスタとして働かせるには、エミッタ(E)-ベース(B)間に順方向バイアス電圧をかけ、ベース(B)-コレクタ(C)間に逆方向バイアス電圧をかけます。
同時に話すと、ややこしくなるので1つずつバイアス電圧をかけていきます。
まずはベース(B)-コレクタ(C)間に逆方向バイアス電圧をかけた図を以下に図示します。

ベースとコレクタの間に逆方向バイアス電圧をかけると、ベースからコレクタにドリフト電流が流れます。これは電位に勾配ができ電位差が生じて電場が発生することを意味します(数式的には\(E=-∇V\))。そして電場\(E\)によって生じる電流をドリフト電流と言いました(詳しくは第4講を参照)。しかし、ベースにある電子密度は少量なのでコレクタには大量の電子は流れません。つまり大量の電流は流れません。第4講でpn接合の学習をしたとき、こういう電流を飽和電流と呼びました。以下の図を参照して思い出してください。

さて、このままエミッタ(E)-ベース(B)間に順方向バイアス電圧をかけてみましょう。そのときの図を以下に図示する。

エミッタ(E)-ベース(B)間に順方向バイアス電圧(\(V_{EB}\))をかけると、n型半導体のエミッタ側の伝導帯の底と価電子帯の頂上はエネルギー\(eV_{EB}\)だけ上に上がります。それが上図の色のついた青と赤の色付き点線は順方向バイアス電圧をかける前の伝導帯の底と価電子帯の頂上の位置になります。エミッタとベースのエネルギー差が縮まると、エミッタにもともと多く存在した自由電子(n型半導体は自由電子が多く、p型半導体はホールが多く存在する)がp型半導体のベースに移動しやすくなります。そして、キャリア密度(今の場合は自由電子)が大きい場所から小さい場所へと流れる電流を拡散電流と言いました(ドリフト電流とは違い電場に依存しない電流です)。つまり、エミッタ-ベースには拡散電流が流れます。
そしてベースに大量の電子が到達すればそれが次にコレクタへ流れます。実際にはベースを非常に薄くして、拡散電流をほとんどコレクタに到達できるようにします(エミッタ電流は、そのほとんどがコレクタ電流になります)。そのため、ベース電流はわずかしかありません。
実際のトランジスタでは、エミッタから注入されるキャリアが多いほどよいです。そのため、エミッタにはドナー(n型半導体の場合)あるいはアクセプタ(p型半導体の場合)を多くドープします。
したがって、エミッタがn型である場合は、高密度のドープを表す+記号が付きます。例えば、n+,n++型と書き、エミッタがp型にある場合、p+,p++型と書きます。
ここまでくればなんとなく、トランジスタが増幅作用を持つというイメージも湧いてきたと思います。そうです、実は既にステップ3に片足突っ込んでいたのです 笑
まずはアース(earth : 名 地球)のお話をしましょう。我々はテレビやパソコンなどの家電製品を買うと、そのコンセントには必ずアースと呼ばれるワニガッパのようなものが隣に付属していると思います。コードの色は黄色と緑だと思います。これを地球に繋ぐことによって、もし電化製品が漏電したとしても人は感電することはなく、電子はアースを介して地球へと逃げていきます。よく落雷しても冷蔵庫やレンジなどの家電がちゃんとアースに繋がっていれば大丈夫と言う人がいますがあれは違います。アースは、コードの劣化などによる漏電したときに、感電や火災を防ぐためのものなのです。
ここでのアースの役割は電圧0V基準を決めるというものです。地球は大きな電荷を収容できる入れ物だと解釈すれば、もし電化製品をアースに繋ぐとその電荷の最終的な行先は地球と言うことがわかります。つまりアースに繋がれたものにどのような電圧をかけてもこの電圧は変動しません。
バイポーラトランジスタには、アースをベースに設置するもの(ベース接地回路)とエミッタに設置するもの(エミッタ接地回路)があります。
接地回路でのポイントは、入力が何で、出力が何かということです。以下の図を見ながら考えましょう。

上図を見ながら考えましょう。例えば、ベース接地回路はベースをアースに繋いで、エミッタを入力とし、コレクタを出力とします。ここで入力のエミッタ電流\(I_E\)に対する出力のコレクタ電流\(I_C\)の比を考えます。これを電流増幅比\(\alpha\)と呼ばれます。
$$\alpha=\frac{I_C}{I_E}・・・②$$
エミッタ電流のほとんどはコレクタ電流になります。そのため、\(\alpha\)は1よりわずかに小さい値になります。
次に上図の右側を考えましょう。これはエミッタ接地回路と呼ばれるものです。一般に最もよく利用される接地回路です。エミッタがアースに繋がっており、ベースが入力、コレクタが出力の接地回路です。ベース電流\(I_B\)を考えてみましょう。このとき①式と②式を使いますと、
$$I_E=I_B+I_C$$
が①式でした。これに②式を代入します。
$$I_B=I_E-I_C=I_E(1-\alpha)・・・③$$
と記述できます。つまり、ベース電流はエミッタ電流の\((1-\alpha)\)倍であることがわかります。
入力のベース電流と出力のコレクタ電流の比はエミッタ接地電流利得\(\beta\)と呼ばれます。②式と③式を使うと、
$$\beta=\frac{I_C}{I_B}=\frac{\alpha I_E}{(1-\alpha)I_E}=\frac{\alpha}{1-\alpha}$$
となります。エミッタ電流のほとんどがコレクタ電流になるので\(0.999\)と置いて計算をすると、\(\beta\)は999倍になります。おおよそ1000倍です。エミッタ電流とコレクタ電流はほぼ同じなので、ベース電流の1000倍がエミッタ電流とコレクタ電流になると考えることができます。
このときの関係図を以下に図示する。

横軸はエミッタ-コレクタ間の電圧\(V_{EC}\)で、縦軸はコレクタ電流\(I_C{/latex]です。カーブはベース電流\(\)I_B\)を変えたときのそれぞれのエミッタ-コレクタ間電圧とコレクタ電流の関係になります。
一番下のカーブはベース電流が\(0\)μAのものです。ベース電流の値を徐々に大きくすると、コレクタ電流も徐々に大きくなります。これはエミッタとコレクタの伝導帯の底の電位差が小さくなっていることを意味します。
そして、エミッタ-コレクタ間(順方向バイアス)の電圧をみると、ある閾値を超えると徐々に一定になっていきます。なのでコレクタ電流を上げたい場合は、ベース電流を上げた方がエミッタ-コレクタ間の電圧を上げた場合に比べてすぐに高い値を得られることが分かります。
以上より、エミッタ増幅による依存性がこのグラフからわかりました。しかし、このカーブからはトランジスタの動作のどこがありがたいのかわからないので、次にそのポイントについて見ていきます。
トランジスタの増幅動作に話します。
テレビや携帯電話のアンテナが受ける電波は微弱です。つまり、人間が見たり聞いたりするために電流や電圧を増幅させる必要があります。そして、トランジスタの増幅動作によりディスプレイやスピーカーを動作させることができます。例として以下の図を考えます。

トランジスタのコレクタには、負荷抵抗\(R_L\)が繋がっています。添え字にあるLは負荷(Load)を表しています。この抵抗に電流が流れることで電圧降下が起こります。これはトランジスタによる電流の増幅はこの負荷抵抗のために行われます。つまり、実際の回路ではこの負荷抵抗がスピーカーあったり、受話器であったりします。そしてこのとき、ベースとエミッタ間に入れる交流電圧\(v_{EB}\)が「増幅させたい信号」です。ちなみに普段我々が使っている家庭用電源も交流電圧です。
具体例を考えましょう。この回路を携帯電話の中の増幅回路だと考えてみましょう。実際の回路はもっと複雑なのですが、ここではイメージを掴むためにシンプルに考えます。携帯電話のアンテナが受けた微弱な信号\(v_{EB}\)を受話器のスピーカー\(R_L\)に増幅して流す働きを考えます。
この回路の右側を考えると、電圧\(V_{CC}\)の電池(電源)から電流\(I_C\)を供給し、抵抗\(R_L\)で電圧降下(負荷抵抗)が起こります。このとき、負荷抵抗で生じた電圧を\(V_L\)と置くと、
$$V_L=I_CR_L$$
と書けます。そして、最後にnpn型半導体でコレクタ-エミッタ間で生じる電位差\(V_{EC}\)と置くと、回路の右側では以下のような関係が成り立ちます。
$$V_{CC}=V_{EC}+I_CR_L$$
コレクタ電流\(I_C\)を左側に移してまとめると、
$$I_C=\frac{V_{CC}-V_{EC}}{R_L}$$
と書くことができます。ここで横軸をコレクタ電圧\(V_{EC}\)に取り、コレクタ電流\(I_C\)を縦軸に取ります。そうすると上式の関係をグラフとして以下のように見ることができます。以下の直線を負荷線と呼びます。

一方で、コレクタ電流\(I_C\)とコレクタ電圧\(V_{EC}\)の間には以下の関係が成り立っています。

上2つのグラフを重ね合わせたものが以下になります。

上図を見ていきます。まず、入力信号のベース電流\(I_B\)は図のようにサイン波で変化するとする(交流電流)。我々が実際に求めるべき電流電圧は負荷線とカーブの交点です。なぜなら、カーブはnpn型トランジスタの電流電圧の増幅性能を表し、負荷線は動作させるのに必要な電流電圧を表します。
数値的な例を考えます。入力信号であるベース電流が2μAのときは、出力信号である約2mAです(交点もあります)。ベース電流が8μAのときは、コレクタ電流が6mAで交点を持ちます。つまり、これらの交点である電流電圧こそが、トランジスタによる電流の増幅がこの負荷抵抗のために行われていると言えます(つまりスピーカーが動作します)。ベース電流の変化(2μA→8μA)とコレクタ電流(2mA→6mA)の変化を比べると増幅される量が大きく違うことが分かります(μとmから桁の違いがわかります)。これこそがトランジスタの増幅作用です。そしてこのような働きをアナログ動作と呼びます。この増幅は便利で扱いやすかったので、急速に真空管に取って代わりました。
さて、先ほどの例は理解を深めるための例でした。トランジスタを使った実際の増幅回路は以下になります。見た目は全く違う回路に見えますが、ほとんど先ほどのエミッタ接地回路と同じです。

先ほどと何が違うのかを見ていきましょう。トランジスタに使用する外部電源は\(V_{EB}\)や\(V_{CC}\)と別々に用意はしません。通常は1つの外部電源\(V_{CC}\)から2つにわけて使います。実際の回路では、別々の電源を用意するのは合理的ではありません(例えば、G点が異なったりするので、別々に使うときはワニケーブルなどを用いてゼロ点を共有してやる必要があります)。
この図では、ベースとコレクタそれぞれ\(R_B\)と\(R_C\)という異なる値の抵抗を使って適切なバイアス電圧をかけています。この図のようなつなぎ方を固定増幅回路と言います。また、\(R_B\)と\(R_C\)の抵抗のつなぎ方は他にもあります。代表的なのは正帰還増幅回路や負帰還増幅回路と呼ばれるものがあります。
また、入力信号である電圧\(v_{EB}\)は交流ですから、ベースとの間にコンデンサーを入れて繋ぐのが一般的です。コンデンサーは直流を通さず、交流だけを通過させるからです。つまりコンデンサーに電圧をかけて入力パルス用の電荷を生成しているということです。
このように実際のトランジスタの回路では、トランジスタを安定に動作させるための工夫が施されています。
これまではトランジスタを使えば、電流や電圧を増幅させることができることを理解した。ここではトランジスタのもう1つの使い道のお話をする。
もう1つの使い道はスイッチとしての働きです。電気を流したり止めたりするのに使えます。これをトランジスタのスイッチ動作とかデジタル動作と呼びます。
このスイッチ動作が最も多く使われているのはコンピューターです。コンピューターでは、0か1の2つで計算します。これは2進法と呼ばれるものです。普段我々が使用しているのは10進法です。例えば、お金では0~9の10個の数字を上手く組み合わせて計算をしています。2進法はYesかNo、high and low、0か1の二択を意味しています。お金(十進法)では9円の次は10円です。二進法では1の次は10です。その次は、11、100、101、110……、のように続いていきます。このようにして二択を組み合わせて計算を行うというわけです。話を戻すと電流を流すというのを1として、止めるを0として考えたりします。これがスイッチング動作です。そしてデジタルとは2進法を意味して、アナログとはもっと色んな情報を含んでいます。例えば、我々の声は色々な情報を含んでいます。高さも大きさも千差万別です。それを電話(コンピューター)を通して誰かと話すときはアナログ情報をデジタル情報に変換して誰かに伝えます。なのでアナログが古いとか、デジタルが新しいというのは大きな誤解です(恐らく多くの人はアナログ放送からデジタル放送への移行をちゃんと理解していないことが原因かと思われます)。
コンピューターと聞けば、パソコンを想像しますが色々なデバイスがあります。今の時代では全ての家電製品はコンピューターと言っても過言ではないでしょう。ちなみに、パソコンの中にあるコンピューターの中心部は数mm角の大きさしかありません。そしてそこに1000万個から1億個ものトランジスタが載っています。もちろん、冷蔵庫、エアコン、洗濯機、携帯電話の中にはマイクロコンピュータ(小さなコンピューター)が働いており、様々なものを制御しています。よくラズベリーパイなどを使用して、こういった制御を行っている人を見たことがあります。例えば、温度が一定に保たれるように電流電圧を制御したりなどです。
トランジスタのスイッチング動作を具体的にイメージします。以下のグラフを見てください。

オレンジ色の負荷線との交点に注目します。まず左上の方では、電圧は小さいですが電流は沢山流れます。次に右下の方に注目すると電圧は大きいが電流はほとんど流れていません。
つまり、ベース電流を0μAから10μAの間で変化させるだけで、トランジスタを流れるコレクタ電流をを流したり、ほぼ止めたりすることができるというわけです。つまり、これこそがスイッチ動作になります。
コンピューターなどではこの動作は非常に重要です。スイッチング動作(デジタル動作)では電流が流れている状態を1として、止まっている状態を0として扱います。こうすることでコンピューターの動作まで実現します(コンピューターは0と1を巧みに扱って制御されています)。
トランジスタを使用する場合には、低い周波数だけなく、高い周波数の場合もあります。低い高いというのは数字を使わなければいまいち感覚がつかめないと思いますので具体例を交えながら話しましょう。
低い周波数での増幅の代表として、音の増幅があります。人間の耳で識別できる音の周波数は20Hzから20kHzまでです。一方で高い周波数の例としては電波があります。ラジオのAM放送の電波は1000kHzぐらいです。またFM放送では100MHzくらいです。
どれぐらい高い周波数まで使えるかを測る指標を遮断周波数と呼びます。遮断周波数はエミッタ接地電流利得(増幅率)\(\beta\)が1になる。つまり、
$$\beta=\frac{I_C}{I_B}=\frac{\alpha I_E}{(1-\alpha)I_E}=\frac{\alpha}{1-\alpha}$$
より、これが1になることから、
$$I_C=I_B$$
と言えます。
遮断周波数とは\(\beta=1\)になる周波数の値で定義されています。
増幅率が1ということはトランジスタの増幅機能が働いていないことを意味しています。高い周波数で動作させるにはできるだけ遮断周波数の高いトランジスタを使うとよいということになります。
遮断周波数とは電流が増幅しない境界みたいなもので、その境界で高い周波数の値になるトランジスタ選ぶ必要があるということです。
例えば、以下の図を見てください。100kHzで\(\beta=1000 \)ですが、100MHzの手前で増幅率は落ち始めます。そして1GHzを超えたあたりで\(\beta=1\)となります。この周波数が遮断周波数\(f_t\)です。

次にトランジスタの増幅の性能を表すもう1つの指標を紹介します。それは\(g_m\)(ジーエムと読みます)です。この量はどのような量かと言うと、以前紹介した以下の図を見てください。

エミッタとベース間の交流の信号電圧を変化させたとき、コレクタの交流電流がどれくらい変化するかを表す量で伝達(相互)コンダクタンス\(g_m\)と呼ばれる量があります。つまり、
$$g_m=\frac{交流コレクタ電流}{交流ベース電流}$$
コンダクタンスは電気抵抗(オーム)の逆数です。これは電気の流れやすさを表します。
イメージとしては
$$\frac{1}{R}$$
は抵抗Rが大きいと小さくなり、抵抗Rが小さいと大きくなります。つまり、\(g_m\)が大きいほど、増幅性能は大きくなります(電流が流れやすくなる)。単位はS(ジーメンス)です。
まとめると
- 遮断周波数\(f_t\)・・・高周波の限界を表す量
- 伝達(相互)コンダクタンス\(g_m\)・・・ベース電圧とコレクタ電流から増幅性能を見る量
ということになります。
これまではバイポーラトランジスタのお話をしました。トランジスタは他にもあります。今から話すのは電界効果トランジスタです。英語ではField Effect Transistorと呼び、略してFETとも呼ばれます。
電界効果トランジスタではバイポーラトランジスタのように3つの電極をエミッタ、ベース、コレクタとは呼びません。ソース、ゲート、ドレインと呼びます。

ソースからドレインにキャリアを流します。ソースとドレインの間にキャリアが流れるところをチャンネル(チャネルとも言います)と呼びます。チャンネルは日本語に訳すと通路という意味です。電界効果トランジスタでは、ゲートにかける電圧でこのチャンネルの電流を制御します。チャンネルを流れるキャリアは電子かホールのどちらか1種類です。なのでユニポーラ(unipolar)トランジスタとも呼ばれています。ユニは「単」、ポーラは「極」を意味します。前にも言いましたが、バイポーラは双極性を意味しています(つまり、電子とホール)。
電界効果トランジスタ(ユニポーラトランジスタ)の中で最も活躍しているMOSトランジスタについて見ていきましょう。
現在の地球上で使われているトランジスタの大多数がMOSトランジスタです。超LSI(Large-Scale Integration : 大規模集積回路)のDRAMやSRAMなどの半導体メモリー(半導体の回路を電気的に制御することで、データを記憶保持する役割を持っています)やマイクロプロセッサ(MPU/CPU)などはMOSトランジスタから構成されています。
おまけ : 集積回路(IC:Integrated Circuit)とは、トランジスタ、抵抗、ダイオード、コンデンサーなどの多数の微細な電子部品とそれらを結ぶ金属配線を一枚の半導体基板の上に一体的に形成し、全体として複雑な機能を持たせたチップ状の電子部品である。イメージを持ちたくなったらグーグルでググって画像を見てみてください。以下のような画像が集積回路のイメージを教えてくれます。

とにかく、MOSトランジスタは幅広く使われているということです。
MOSトランジスタは以下のような構造をしています。

どのように電子が増幅するのかについて大まかなところから話します。
ソースからドレインへ電子が流れるステップとして、
- ゲート電極に電圧を掛けます。
- この電圧によりp型電位が曲がります(電位差が生じると傾きが生じて電場\(E=-∇V\)が生じます)。
- この電位が曲がったことによりp型半導体に電子が溜まる溝(チャンネル)が出来ます(黄緑色の部分)。
- この溝を通じてソースからドレインへと電子が流れます。
- ゲートに電圧をかけるのを止めると溝(チャンネル)はなくなり、電子はp型半導体を媒介して流れることはありません。
つまり、ゲート直下の電場(電界)を操作してチャンネルを流れる電流を制御できるということになります。このオンとオフの間の電場(電界)では電流の量もアナログ的に変わるので増幅作用を持たせることが出来ます。
このようにして電界効果トランジスタ(ユニポーラトランジスタ)はゲート電極の電場(電界)によって、ソースからドレインへキャリアの通り道(チャンネル)を制御するというもので、基本的な概念は接合型トランジスタ(バイポーラトランジスタ)よりずっと簡単です。
電子がチャンネルを走るFETをNチャンネルFETと呼びます。ホールがチャンネルを走るFETをPチャンネルFETと呼びます。その記号は以下のようになります。接合型トランジスタ(バイポーラトランジスタ)とは少し異なっています。

ではMOS構造を見ていきましょう。まず、MOSとはMetal(金属)-Oxide(酸化物)-Semiconductor(半導体)の略です。最も簡単なものはシリコンの上に絶縁体であるSiO2の酸化膜があり、その上に金属の電極がついているものです。酸化膜は絶縁体なので電気を流さない抵抗になります。つまり、金属電極とシリコンは絶縁体で隔てられているので、金属と半導体間で直流電流が流れることはありません。
この構造を以下に図示します。バイアス電圧がないときは左側で、バイアス電圧があるときは右側になります。

バイアス電圧がかかっていないときは左側のような形になります。しかし、絶縁体であるSiO2の伝導帯の底は高いエネルギーのところにあるので図のように土手のようなポテンシャルの壁になります(ピンク色)。当然、この土手を乗り越える電子はいません(電流が流れません)。なのでSiO2は絶縁体として機能します。
しかし、これに電場をかけると(バイアス電圧をかける)、右側の図のようにバンドが曲がります。そして、その溝(チャンネル)に電子が溜まります。このときp型半導体に電子が溜まっているということになるので反転層などと呼ばれます。電子がソースからドレインまで流れるイメージを作るためにざっくりとしたイメージを以下に図示します。

このようにして電場(電界)のかけ方によってチャンネルは現れたり消えたりするので電流のコントロールができます。
ここでMOSトランジスタ(ユニポーラトランジスタ)と接合型トランジスタ(バイポーラトランジスタ)の違いについて見ていきます。
MOSトランジスタはバイポーラトランジスタに比べて構造が簡単なので集積回路を作りやすい利点があります。しかし、一般的にはバイポーラトランジスタより応答速度が遅いという欠点があります。
なぜ、MOSトランジスタがバイポーラトランジスタより応答速度が遅いのかは2つの理由があります。
- ゲート直下のチャンネルの長さがバイポーラトランジスタのベース領域に比べて長い。
- 反転した半導体(p型なら電子が溜まり、n型ならホールが溜まる状態)がコンデンサーになっている。
以上の2つの理由が挙げられます。
1つ目の理由から説明すると、チャンネルをキャリアが走行するのに時間がかかります。
2つ目の理由は、ゲートにバイアス電圧を掛ければp型半導体には溝(チャンネル)ができます(n型ならホールが溜まります)。このとき、反転した半導体側に電子があるので、これはコンデンサー(キャパシター)になっています。コンデンサーは電荷を留めて置き、そしてパルスとして電荷を放出することもできます。つまり、ゲート電極に電圧をかけたり、切ったりすることはこのコンデンサーを充電したり、放電したりすることを意味します。コンデンサーの充放電にはRC時定数と呼ばれる時間の定数が関係します(抵抗とコンデンサーの積が時間になります)。MOSトランジスタでは静電容量Cが大きいのでRC時定数も大きくなります。つまり、充放電に時間がかかることを意味します。
よって、高速に応答するMOSトランジスタを作るには、ゲート長を短くすることによってチャンネルの長さを短くすること。そして、ゲートの静電容量を減らしてRC時定数を短縮する必要があります。この両者の研究は今も続いているとのことです。
これまではSi(シリコン)でできたMOSトランジスタのお話をしてきました。このように単体元素で構成された半導体を真性半導体と呼びます。一方で化合物半導体であるGaAsやInGaAsなどを用いてもMOSトランジスタ(電界効果トランジスタ)を作成できます。ただし、SiO2のような良好な酸化物の絶縁体は形成できません。そのため、MOS型は現在のところ完成はしておらず、シリコン半導体の研究開発費には莫大な資本が投資されておりますが、化合物半導体のデバイス作成技術はそれに比べると投資資金が少ないので十分な確立がなされていないなどの弱点があります。ちなみに、私が院生時代に研究していた検出器はシリコン半導体検出器でした。
しかしながら、それでも化合物半導体が電子デバイスに用いられる理由があります。それは有効質量が小さいので移動度が大きいということです。つまり、シリコンに比べて小さな電圧で大きな電流が流れるということです。例えば、GaAsの電子の有効質量は真空中の電子の質量の6.7%でシリコンよりずっと小さな値になります。
この化合物半導体のトランジスタに大きな進歩をもたらしたのが、高電子移動度トランジスタHEMT(High Electron Mobility Transistor)です。HEMTでは、以下の図のようにnドームしたAlGaAs層と、何もドープしていない高純度のGaAs層の境界にできるチャンネルを利用します。

上図をみてわかる通り、GaAsの層はノンドープです。そのため不純物がありません。この不純物のないエリアにチャンネルが出来ているというのが特徴的です。なぜなら、通常なら不純物によるキャリアの散乱が行われますが、今回の化合物半導体ではそれを劇的に減らします。
例えば、MOSトランジスタなら以下の図のようにアクセプタ原子があり、チャンネルを走る電子は、アクセプタ原子のクーロン力により進行方向が曲げられたり、跳ね返されたりします。

しかし、HEMT構造だと以下のようにアクセプタ原子(不純物)がないので、移動度が高く、ノイズの少ないトランジスタになっています。

この特徴を活かして、HEMTは衛星放送のアンテナの中のアンプ(増幅器)や天文台の電波望遠鏡のアンプとして使用されています。
集積回路(英 : integrated circuit, IC)とは、電子部品などを1つの基板(チップ)上に作製(実装)したものです。ググって画像を見て頂くとイメージが持てます。

これにより、様々な電子機器を小型化できます。トランジスタそのものも小さくなるので省電力化もはかられました。昔はテレビでしかテレビは見れませんでしたが、現在はスマートフォンや携帯電話でテレビを見ることができます。これは回路そのものが小さな半導体チップに代わってしまっていることを意味します。そう考えると、テレビゲームなどにも通じます。今では持ち運びが容易な携帯ゲーム機がありますが、あれも小さな半導体チップに置き換わっているからです。
では、誰がこれを考えたかをお話します。
トランジスタを半導体の中に作り込む際、ドナーやアクセプタを拡散させてn型やp型にしたり電極を作ったりします。この手法を使って1枚の半導体ウェハーの上に複数個のトランジスタを作り込むことが出来ます。
1枚のウェハーやチップ上に抵抗やコンデンサー、トランジスタやダイオードを作り込んでしまえば、回路そのものを半導体チップ上に作製できるのではないかと思いついた研究者が2人いました。インテル社の創業者の1人であるノイス、もう1人はテキサスインスツルメンツ社の研究者キルビーです。インテル社は名前だけ知っている人は多いと思います。テキサスインスツルメンツ(以下、「TI」)はあまり聞きなれてない人もいるかもしれませんが、めちゃくちゃビッグカンパニーです。世界のアナログチップの2割がTIで作られたものです。No.1のシェア率です。ちなみに、TIの競合であるアナログデバイセズとは2倍以上のシェア率の差をつけています。これはTIが豊富な製品数(10万種類)を扱っているところにあります。競合他社でも1万種類くらいです。話はそれましたが、TIはビッグカンパニーなのです。直接家電製品屋さんで名前を聞くことはないと思いますが、半導体を扱う研究者や企業に所属するとほぼ確実に名前を聞くと思います。私が学生の頃に扱っていたデバイスもTI製のものはありました。
話を戻しましょう。これ以上話すとかなり逸脱する可能性が在ります。キルビーの特許は以下の図のように1枚のウェハーにトランジスタや抵抗、コンデンサーを作るというものでした。そして、出来上がったそれぞれの部品の間をワイヤーで繋ぐというものでした。以下はフリップフロップ回路を集積化したKilby特許の図です。

1枚のウェハー上に複数の部品を作れる重要なポイントはこれまでは別々の部品を回路基板上ではんだ付けするよりかなり小さく出来ます。しかし、ワイヤーの直径は0.1mm程度なので、それほど小さく出来ないし、部品間をつなぐのは手間がかかります。私はワイヤーボンディングというのをまじかで見たことがあります。裸眼で見るにはものすごく細かくて、顕微鏡などを通してワイヤーをチップに繋いでいました。
一方、ノイスはシリコンチップにトランジスタを作り込む提案を加えて配線部分はワイヤーではなく、金属(アルミニウム)を蒸着して回路を作る方法を提案しました。以下がノイスがプレーナーICに関するNoyce特許の図になります。

キルビーの特許の方が早い時期に提案をされていますが、構造は簡単です。そして、ノイスの特許の時期はキルビーに比べて遅れてはいますが、ICとして完成度は高く、現在の集積回路のベースになっています。
2つの特許に関してはテキサスインスツルメンツ社とフェアチャイルド社の間で争いが起こりました。流石訴訟大国アメリカと言うべきでしょうか。特許訴訟にはテキサスインスツルメンツ社が勝ちましたが、両者はICに関するクロスライセンスを結びました。クロスライセンスとは、お互いの関連する特許を相互に利用する契約の事です。これは雨降って地固まるとは、このことでしょう。
コンピューターの世界でも集積回路(IC)は大活躍しています。CPUやメモリーの集積度は日ごとに向上しております。最新のCPUでは、1個のチップに1億個以上のトランジスタが載っています。つまり、それだけ洗練された技術のベースをノイスとキルビーは築き上げたということです。
他にもデジタルカメラの目であるCCDやCMOS(ソニーのCMOSセンサーは有名です)などの半導体デバイスもまだまだ集積度を上げています。デジタルカメラの画素数も、100万画素や300万画素から1000万画素のものまでできています。私も研究でピクセルセンサーを取り扱っていましたが、その性能は向上しています。分解能が上がっていると言えるでしょう。
半導体の中のメモリーの集積度の向上については1980年ごろまではアメリカ優勢でしたが、80年代半ばには日本がリードし最先端に立ちました。今だと、東芝グループのキオクシアがメモリー事業で有名です。この背景には、アメリカは半導体を軍事利用目的として研究を深めたのに対して、日本は民間への導入目的で繁栄したのが大きな違いを生んだのだと考えられます。しかし、90年代初頭のバブル経済の崩壊により日本企業の競争力は落ちて、韓国や台湾などのメーカーが新たなライバルとして登場しています。90年代などは香港などの電飾看板は日本のブランドで埋め尽くされていましたが、今では韓国や台湾、中国など、日本の企業が徐々に立ち位置を削られています。日本の経済は2000年代に突入してずっと右肩下がりです。その背景には、色々な問題点があります。例えば、日米半導体協定や日本のマーケティング、技術の流出などが挙げられます。
日米半導体協定とは、いわば、現代版の不平等条約みたいなものです。そしてマーケティングでは90年代以降の日本を思い出してください。日本の製品は高品質高価格路線を辿りまいたが、韓国などのアジア諸国の製品はそれなりのもので低価格路線を辿りました。結果としては後者の方が売れるということになりました。私も2015年に引っ越しをする際に、ソニーのBRAVIAを買うか、LGのテレビを買うか悩みました。32型のテレビでした。当時はソニーが6万円くらいで、LGが3万円くらいだったと思います。私は結局後者を買いました。2020年では日本メーカーと中国メーカーのロボット掃除機を買うので悩みました。日本メーカーは2.5cmの段差まで上がれて13万程度、中国メーカーは2cmの段差まで上がれて6万円程度でした。私は後者を選びました。0.5cmに約7万円を支払う気にはなれなかったのです。日本は不景気は今後も続くと思います。なので、私のような思考をする方が多くても不思議ではありません。それでも高品質高価格路線を貫くのならば、将来的な展望はますます厳しいものになると予想できます。そして、技術の流出です。日本はアジア諸国に工場を作ったり、下請けの委託をしたりしました。その結果、技術が流出するということが起こり、結局、流出先に追い越されるというのも珍しくはありません。2016年に日本のシャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたのは有名な話です。しかし、元をたどれば鴻海精密工業はシャープの下請け先でした。皮肉な話ですが、技術以外の部分で大きく打ち負かされる典型的な例題になると思います。良いものが必ず売れるとは限らないということです。
今まではアジア諸国に日本が追い越される話をしましたが、当然、アメリカやドイツの企業も復活しています。半導体デバイスは現在、集積度やスピードにおいて毎年著しく性能が向上しています。ムーアの法則がこれを表しています。
仮にハードウェアの今後の敵が現れるとすれば、それはソフトウェアの可能性があります。半導体はハードウェア側と言えるでしょう。例えば、ドローンなどの飛行を安定して制御することを考えた場合、ハードウェア的な技術を向上させるべきか、あるいはソフトウェアを巧みに扱って制御するなどが考えられます(プログラミングで回転数が安定するようにするなど)。他の例だと、スマートフォンカメラなどが挙げられます。AppleとGoogleを比較すると、お互い素晴らしい写真が撮れますが、力を入れている分野が違います。ハードウェアを向上させてカメラの質を上げるのか、ソフトウェアを向上させてカメラの質を上げるのかということです。Appleはハードウェア、Googleはソフトウェアに力を入れているので、携帯ショップへ行ったときに比較をしてみると面白いと思います。
さて、だいぶ話が逸れました。ノイスはインテル社の創業者の1人です。そしてビジネスの世界でも名を広めました。キルビーは2000年にノーベル物理学賞を受賞しました。そのとき、ノイスは他界していたので、もし生きていたら受賞の可能性は十分にあったと思います。ノーベル賞財団が発表したキルビーの受賞理由は以下の通りになっています。
「for his part in the invention of the integrated circuit」
直訳すると、集積回路の発明はにおける彼の役割があったから、という非常に限定的な表記になっています。そして、ノーベル賞の広報資料にも、ノイスの貢献が書かれていることから、同時受賞の可能性は十分あったことが伺えます。
これで電気を流す半導体デバイスのうち、ダイオードとトランジスタについての重要な部分は学びました。次の講では、半導体と光のつながりについて見ていきます。どのようにすれば、発光がしやすくなるのかなどです。
参考文献

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