- 電流の大きさを決めるもの
- 電子の状態密度
- 波としての電子の状態の数
- 半導体での電子状態の数
- 量子統計
- 電子とホールのエネルギー分布について
- 伝導帯と価電子帯のキャリア密度
- 質量作用の法則
- フェルミエネルギー\(E_F\)の位置
- n型半導体とp型半導体
- 不純物半導体のキャリア密度
- 疑フェルミエネルギーを求める
- 参考文献
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半導体デバイスは電気を流すことによって動作します。この電気の流れとはキャリアである電子とホールのことを指します。どれくらいの電気が流れるかはデバイスの性能を大きく作用することになります。
では、電流の大きさは何で決まると思いますか?
それは“キャリアの数”と“速さ”です。キャリアが沢山あって、スピードが速ければ、大きな電流が流れます。キャリアが少なくて、スピードが遅ければ、電流はとても小さくなります。
第2講ではキャリアの数を学んでいきます。
第1講ではバンドについて学びました。価電子帯には電子が詰まっており、伝導帯に自由に動ける電子がいるとお話しました。ホールは詰まっている電子の隙間を利用して動くので価電子帯にいます。
自分がどのような状態の電子について考えているのか、多面的に見ていくことで理解が深まります。
価電子帯にある電子が光のエネルギーを受光してバンドギャップを超えて伝導帯へと行ったとする。このとき、価電子帯にはホールが出来ます。

この場合、自由電子とホールの数は同じだとわかります。そして、この自由電子とホールの数が多ければ発光させたり(伝導体の自由電子は光を放出して価電子帯へ移行します)、何かと便利です。つまり、伝導帯にいる電子の数を把握すること(価電子帯にいるホールも同様)はデバイスを作る上でとても重要です。この電子の状態の密度を状態密度という言葉で表現します。電子の状態というものを理解して、その数を知ろうというのがモチベーションになります。
これから考えるのは伝導帯の電子、つまり自由電子です。知らなければいけないことは電子の状態でした。量子力学というものをご存じでしょうか。量子力学では、電子には波としての性質と粒子としての性質があります。これから考えるのは波としての状態です。厳密には違いますが、イメージとしてはサッカーのPKを想像してみてください。僕がボールを蹴った後は既に結果が決まっています。これが粒子としての状態です。波としての状態とは僕がボールを蹴る前の状態になります。僕には無数の選択肢があります。波も同じくゆらぎというものがあり無数の状態があります。
波というものを肌感覚で理解するために、例として、コンサートホールの音響の波について考えてみます。ここで波のイメージが掴めれば、電子の波の状態も理解したと言えるでしょう。
一辺が34mの立方体を想像してください。これをコンサートホールとしましょう(あまり複雑なのは面倒なので苦笑)。
※音速は340m/sです。そのため34は都合のいい数字です。

図を見てわかる通り、y方向に波が進行しているとすると波の腹が両端に来ています。これは今この立方体を開放端として扱っている設定にしているからです。開放端とはビールを飲むジョッキがあったとして、その飲み口は丸く穴が開いていますこれを開放端と言います。逆に閉口端とはジョッキの底のようになっている状態のことを言います。このとき、波の節が閉口端に来ます。開放端は音の共鳴によく使われます(中学生のときに理科の授業でやっていると思います。僕は寝てたので記憶にありませんが 苦笑)。
この開放端での共鳴条件には制限があります。今この立方体がホースのようにy方向の両端が開放していると考えたとき、この立方体の隣にもう1つ同じ立方体を置くとどうなるでしょうか。答えは同じように波は進行します。

左端から波が進行して、2つ目の立方体の境界線に来たとします。このとき、最初の左端から来た波と同じように振動します。つまり、1つの立方体での波の振動を考えたとき、無数の立方体を横に並べた動きも瞬時にわかることを意味しています。このように周期的な動きを境界線で区切って考えてやることを周期境界条件といいます。例えば、観覧車が1周する時間を考えてみてください。これが分かれば周期境界条件により、観覧車が100周する時間もわかるはずです。
一辺が34mの開放端で共鳴する波長は34mです(34m進んで元の位置に戻ってきます)。この波だと1秒間に10回振動します(10Hz)。この振動数はシンプルに音波340m/sと振動数(Hz)=1/周期(s)の関係を使えば出ます。
$$340[\frac{\rm{m}}{\rm{s}}]×\frac{1}{34[\rm{m}]}=10\rm{Hz}$$
このように安定して共鳴する波を定在波と言います。安定な音波の状態の1つです。
では20回振動する波を考えたときはどうでしょうか。それは34mの中にこぶが2つある波のことです。この時の波長は17mです(17m進むと元の位置になる)。この音もまた共鳴し、伝わっていくので定在波です。つまり、安定な音波の状態の1つと言えます。
ここで次に考えるのは、この定在波という安定な状態の数はどのような規則性があるかということです。
それは波の数を見ればわかります。そしてそれを波数と定義しましょう。\(k=\frac{2π}{λ}\)と書けます。これを使えば定在波の条件をわかりやすく表現できます。波長34m,17m,11.3mを順に表現すると、
$$k_y=2π×\frac{1}{34[\rm{m}]}$$
$$k_y=2π×\frac{2}{34[\rm{m}]}$$
$$k_y=2π×\frac{3}{34[\rm{m}]}$$
となります。勿論、定在波はこの3つ以外にもたくさんあります。
そこで定在波の条件を1つの式にまとめると
$$k_y=\frac{2πn}{L}$$ (nは整数)
と書けます。添え字のyはy方向という意味です。これをグラフにして表すと以下のようになります。

もちろん、x,z方向の波も考える必要があります。
同様にして考えると、xy平面のグラフは以下のようになります。

さらにxyz全ての方向の波を考えたときは、以下のように波数を表せます。

念のためにおさらいをしておくと、これらの図の波数の点が安定な音(定在波)が響く点を表しているということになります。つまり、この点と点の間には安定な音は存在しないのです。注意して欲しいのは、今はコンサートホールの壁を開放端として考えた場合です。
波としての電子の状態数を更にイメージしやすくするために話を少しだけ、数式を用いたものにします。
波長が変わると運動量やエネルギーが変わります。これらは波数kを用いて表すことができます。例えば、量子力学では、光も電子も運動量は
$$p=\hbar k$$
と表せます。\(\hbar\)はプランク定数です。\(\hbar\)倍掛ければ運動量が出るので、定量的なものを考えるときは波数をほとんど運動量と見なしても構いません。波長が変わって、変化するのはこのkです。2πを波長で割ったのが波数なので、波長が大きくなれば、波数(運動量)は小さくなり、波長が小さければ、波数(運動量)は大きくなります。なので上図のxyzの波数の空間は運動量の空間とも考えることが出来ます。半径|k|(あるいは|p|)の球を考えたとすると、その格子点1つ1つが取りうる状態数です。それがxyz方向の運動量というニュアンスで考えると少しイメージしやすくないですか。
これまではコンサートホールを例に考えました。次はコンサートホールではなく、半導体の固まり(バルクと呼びます)の場合を考えていきます。先ほどと同様に一辺Lとしておきます(一辺Lの立方体の空間を考えます)。考えるのは電子の波としての性質です。つまり、バルクの中で共鳴して安定に存在できる定在波について考えることにします。具体的には定在波の種類を数えます。しかし、ここまでの話は先ほどの音波の場合と同様なので省きます(1つ前の図を参照しながら読んでいってください)。

実際に電子の状態数を求めて見ましょう。
まずは、あるエネルギーEからE+ΔEの範囲にある電子の状態数について考えます。電子の運動エネルギーは
\(E=\frac{p^2}{2m}\)と表せます。量子力学では電子の運動量は\(p=\hbar k\)なので、これを代入すると、\(E=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\)となります。波は大きさと方向を持ちます。今考えているのは三次元空間の場合なので、\(k^2=k^2_x+k^2_y+k^2_z\)と書くことが出来ます。これはただベクトルkの内積を取っただけです。ここで前図の球の半径は\(|k|=\sqrt{k^2_x+k^2_y+k^2_z}\)となります。つまり、\(E=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\)を見ると、球の半径\(|k|\)が小さいとエネルギーは小さく、半径が大きいとエネルギーも大きくなることがわかる。つまり、この半径の球の表面に格子点がいたとすると、その格子点は\(E=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\)を持っていると言える。
ところで我々は今、「あるエネルギーEからE+ΔEの範囲にある電子の状態数」を考えている、これを状態密度と呼びます。図的には球をイメージしてください。その球をほんの少し大きくしてください。元の球と大きくした球の間にある格子点の数が状態密度です。つまりこの領域にある状態の数を数えることが状態密度を求めることに繋がります。
これを計算します。求め方は簡単です引き算です。E+ΔEの球からEの球の状態の数を引けば状態密度が求まります。球の半径はエネルギーEより、
$$k=\frac{\sqrt {2mE}}{\hbar}$$
となります。よって、この半径の球の体積を求めれば状態の数がわかります。半径rの球に対して、体積は\(\frac{4πr^3}{3}\)なので、エネルギーEの球の状態の数は、
$$\frac{4πk^3}{3}=\frac{4π(\frac{\sqrt {2mE}}{\hbar})^3}{3}$$
です。
一辺\(\frac{2π}{L}\)の立方体1個が1つの状態に対応するので先ほど求めた球の体積を\((\frac{2π}{L})^3\)で割ると、この体積に含まれている状態の数が出てきます。
$$\frac{\frac{4π(\frac{\sqrt {2mE}}{\hbar})^3}{3}}{(\frac{2π}{L})^3}$$
と書けます。同様にE+ΔEの状態の数は、
$$\frac{\frac{4π(\frac{\sqrt {2m(E+ΔE)}}{\hbar})^3}{3}}{(\frac{2π}{L})^3}$$
となります。
つまり、この2式の差を取れば、2つの球に挟まれた状態の数が求まります。
$$\frac{\frac{4π(\frac{\sqrt {2m(E+ΔE)}}{\hbar})^3}{3}}{(\frac{2π}{L})^3}-\frac{\frac{4π(\frac{\sqrt {2mE}}{\hbar})^3}{3}}{(\frac{2π}{L})^3}$$
$$=\frac {L^3}{6π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3(\sqrt{E+ΔE}^3-\sqrt{E}^3)$$
$$=\frac {L^3}{6π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3((E+ΔE)\sqrt{E+ΔE}-E\sqrt{E})$$
$$=\frac {L^3}{6π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3((E+ΔE)\sqrt{E}\sqrt{1+\frac{ΔE}{E}}-E\sqrt{E})=①$$
ここで、a<<1のきに成り立つ近似式\(\sqrt{1+a}≈1+\frac{1}{2}a \)(1次のテイラー展開)を使うと、
$$①≈\frac {L^3}{6π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3((E+ΔE)\sqrt{E}(1+\frac{ΔE}{2E}-E\sqrt{E})=②$$
さらにΔE×ΔEの項は微小なもの同士の掛け算なので、無視して近似すると、
$$②≈\frac {L^3}{6π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3(E\sqrt{E}((1+\frac{ΔE}{2E})+ΔE\sqrt{E}-E\sqrt{E})$$
$$=\frac {L^3}{6π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\frac{3}{2}\sqrt{E}ΔE$$
$$=\frac {L^3}{4π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\sqrt{E}ΔE$$
と計算することが出来ます。これが2つの球の間(エネルギーEとE+ΔEの間)にある状態の数になります。
あるエネルギーEでの電子状態の数を表す関数N(E)と置きます。すると、エネルギー幅ΔEの間にある状態の数はN(E)・ΔEと表現され、
$$N(E)・ΔE=\frac {L^3}{4π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\sqrt{E}ΔE$$
と書くことができます。両辺をΔEで割ると、
$$N(E)=\frac {L^3}{4π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\sqrt{E}$$
となります。これで1辺の長さLの立方体に含まれる状態の数、つまり、定在波の種類の数がわかりました。今までやったことを整理すると、EとE+ΔE間の状態の数を引き算して、エネルギーEを変数とした、状態の数の関数N(E)を導出しました。
上式を見ると、Lが大きければ、状態の数も大きくなります。そこで、これを単位体積当たりに直しておきます。単位体積あたりに直すというのを感覚的に表現すると、例えば、8時間で24km走る車があったとすると、1時間あたりに直すと24km/8h=3km/hと1時間あたり3km進むと表すことができます。これは単位時間当たりに直したと言えます。どのくらいの時速と尋ねるとき、時速180km(180km/h)とか100km/hと言いますよね。360km/2hとか200km/2hなんて言わないと思います。そのため、単位あたりの表現をするのは時と場合によって、物事をわかりやすくするのに便利なのです。
そういうわけで、単位体積当たりの数に直すには\(L^3{/latex]で割ればいいだけなので、
$$D(E)≡\frac{N(E)}{L^3}=\frac{1}{4π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\sqrt{E}$$
※≡は定義するという意味です。
これで単位体積当たりの状態密度D(E)が求まりました。これは波としての電子の状態の数です。量子力学を学んだ方なら知っているかもしれませんが、電子は1つの波に対してさらに2つの状態が対応します。これをスピンという表現を使ってアップスピンとダウンスピンという状態が1つの波の状態に対応します。スピンについては量子力学をやって頂くとご理解して頂けると思うので、ここでは詳しい説明は省きます。量子力学的には、あの格子点1個に2つの状態が存在できるということです。
これまではずっと1つの波の電子の状態の数(アップスピンまたはダウンスピン)のみ考えてきました。1つの電子の波に対して2つの状態が存在を対応させるには状態密度D(E)を2倍すれば、その状態の数は2倍され、それはアップとダウンスピンを考慮したことになります。
$$D_e(E)=\frac{1}{2π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\sqrt{E}$$
これでようやく、量子力学にも対応した電子の状態密度の式が導出されました。これをグラフにして書くと以下のようになります。

グラフにして書くと視覚的に分かりやすくなります。エネルギーが大きいほど、状態の数は増えていきます。しかし、このグラフを見てわかる通り、状態の数を徐々に増やすにつれて、かなり大きなエネルギーが必要になります。この状態密度の形を覚えておくといいでしょう。3次元状に広がった半導体(バルク)を対象にしましたが、量子井戸型と呼ばれる構造を作ると、この状態密度の形を変えることが出来ます(あとから行います)。
とりあえず、半導体(バルク)内における波としての電子の状態の数をスピンを考慮したエネルギーの関数の形で表すことが出来ました。
電子の状態数をエネルギーの関数として表すことができました。電子の分布がエネルギーによって決まるということです。
次に考えなければいけないのは、これらの状態に電子がどのように分布していくかというこです。
エネルギーの高いところに多数電子がいるなど、低いところに多数いるという「エネルギーと電子分布の関係の概念」をエネルギー分布と言います。※これは空間的な分布ではありません。関数の変数はEです。空間的分布だと位置xの関数になります。
このエネルギー分布を考えるには統計力学の知識を使います。
電子のエネルギーではエネルギーが低い状態から順に埋まっていきます。しかし、熱や光のエネルギーの影響があると、電子はそのエネルギーを貰ってより高いエネルギーの場所へと存在できます。価電子帯から伝導帯へと移動した話を思い出してください。

エネルギー分布を考えて見ましょう。
まずは準備として、電子より大きくてニュートン力学の対象となる粒子を考える。例として、気体の分子のエネルギー分布を取り扱います。これはマクスウェルとボルツマンが明らかにしたので、マクスウェル-ボルツマン分布と呼ばれています。あるエネルギーEを持つ粒子が存在する確率f(E)は、
$$f(E)=e^{-\frac{E}{k_BT}}$$
と表すことができます。
$$k_B=1.3806×10^{-23} \rm{J/K}$$
はボルツマン定数と呼ばれるものです。Kは絶対温度で、普段使っている摂氏ではありません。-273℃の絶対零度が0Kという基準になっています。なので0℃で273Kとなります。室温27℃で300Kというキリのよい数字が出せます。この室温27℃をRoom Temperatureという頭文字をとってRTと固体物理学の論文などで表されています。
この分布の特徴はエネルギーが大きくなると存在確率が小さくなります。
次に電子はどのような統計に従うのか考えて見ましょう。電子は気体の分子の場合に比べて少し複雑です。
電子はフェルミとディラックが作り上げたのでフェルミ-ディラック分布に従います。この2人はマクスウェルやボルツマンより70年ほど遅れて生まれました。そして量子力学の建設に大きく関わった人物です。フェルミ-ディラック分布に従う粒子はフェルミ粒子(フェルミオン)と呼ばれています。電子はフェルミ粒子に分類されます。ちなみに、粒子はボーズ粒子とフェルミ粒子の2つに大きく分けられ、前者は同一の状態にいくつもの粒子が存在できます。後者は同一状態に2個以上存在できません。例えば、もう一度下の図を見てください。

この格子点が電子の波としての状態を表しています。そして、その格子点にはアップとダウンの2つの状態が存在できます。つまり、ある格子点でアップスピンを粒子が3つとか4つとかにはなりません。ある格子点では、(アップスピンの電子の個数、ダウンスピンの電子の個数)=(1,0),(0,1),(0,0),(1,1)の場合しかありません。エネルギー準位を使って表すと、イメージとしては以下の図のようになる。

一方でボーズ粒子はというと1つの格子点にいくつもの粒子が存在できます。つまりエネルギー準位で表すと以下の図のようになります。
エネルギー準位というのはエネルギーを表している軸なんだけど、エネルギーは連続的に存在するわけではなく、離散的に表されます。跳び箱みたいに段階的に表されているイメージです。

これから考えるのは電子についてなのでフェルミ粒子について考えます。そしてフェルミ粒子が従うフェルミ-ディラック分布というものからあるエネルギーEを持つ電子の存在する確率を理解します。その存在確率f(E)は次のように表されます。
$$f(E)=\frac{1}{1+e^{\frac{E-E_F}{k_BT}}}$$
この分母にあるEFはフェルミエネルギー、フェルミレベル、化学ポテンシャルなどと呼ばれている量です。FはFermiのFです。ここでの\(\)E_F\)(←バグで表示)\(E_F\)は\(E=E_F\)のときに電子の存在確率が\(1/2\)になり、0K(-273℃)の絶対零度のとき、価電子帯で最も電子が占有されている状態になります。絶対零度では全ての分子運動が停止します(もちろん、生きている生物なんていません)。電子が伝導帯に存在し自由電子として動くことはないということを意味しています。
今いったことなどを実際に数式を用いて考えて見ましょう。
まず最初にT→0Kと限りなく絶対零度に近い場合を考えます(T=0Kと数式に代入をしたいですが、数学的なルールでは分母に0を代入することはできません。そこで限りなく近い状態というのを考えます)。考える場合は2つです。\(E-E_F>0\)と\(E-E_F<0\)です。つまり、前者だとeの指数の部分が正に発散して、f(E)が0へと収束します。後者だと、eの指数の部分が負に発散するので、f(E)が1へと収束します。これをグラフにして書くと以下のようになります。

次にT=300Kの室温状態について考えます。これは手計算では難しいのでまずは以下のグラフを参照してください。

このグラフは0Kの場合に比べて、\(E-E_F>0\)のところにも電子が存在しています。つまり、温度を上げることによってエネルギーの高い電子が存在することが確率的に表されているということです。熱のエネルギーを受け取り価電子帯から伝導帯へと電子が移動し、自由電子が存在することを意味しています。もっと温度を挙げれば、もちろん熱によるエネルギーを受けとって伝導帯に存在する自由電子が増えることが予想できます。
また、最後に注意されたいのは、\(E-E_F=0\)のときは温度に依らず確率が\(1/2\)で表されます。\(E_F\)を確率の1/2を表す境目ということがわかります。
伝導帯には自由に移動できる自由電子が存在し、価電子帯には自由に移動できるホールが存在します。
まずは電子について考えます。伝導帯の底を\(E_C\)とすると以下のようなグラフになります。これは電子の状態密度とエネルギーの関係図で一つ前のセクションで導出したものです。\(E_C\)を原点としています。そして、伝導帯にある電子の状態密度は
$$D_e(E)=\frac{1}{2π^2}(\frac{\sqrt{2m}}{\hbar})^3\sqrt{E}・・・③$$
と表せます。

ところで真性半導体という言葉を覚えていますか。真性半導体は単体の元素で出来た半導体です。一方で化合物半導体は2種類以上の元素で出来た半導体です。
真性半導体のフェルミエネルギーは伝導帯の底と価電子帯の頂上とのほぼ中間にあります。半導体のバンドギャップは1eVくらいなので、その半分だと0.5eV程度の大きさになります。なので状態密度\(D_e(E)\)とエネルギーの関係図だと、0.5eVしたくらいにフェルミエネルギー(化学ポテンシャル)が来ます。
伝導帯の電子の状態に電子が入る確率はフェルミ-ディラック分布\(f(E)\)で決まり、絶対零度では伝導帯に存在する電子はゼロですが、室温(300K)では熱の影響により伝導帯に自由電子が存在します。この確率\(f(E)\)と電子の状態数\(D_e(E)\)を掛けたものが以下のグラフになります。

数式的に書くと伝導帯の電子密度nは、
$$n=\int_{E_C}^{∞}f(E)D_e(E)dE・・・④$$
と書けます。これは温度における電子の存在確率を考慮して、電子の状態の数を全て足し合わせて求めたことになります。
同様に価電子帯のホールについても考えることが出来ます。ホールのエネルギーは電荷がプラスなので電子の場合と対照的になります。また、フェルミ-ディラック分布では「ホールが存在する確率」=「電子が存在しない確率」なので\(1-f(E)\)がホールが存在する確率です。したがって、以下の図のように考えることができます。

同様に数学的に価電子帯のホール密度pは、
$$p=\int_{-∞}^{E_V}(1-f(E))D_h(E)dE$$
と表すことが出来ます。
もちろん、絶対零度(0K)では価電子帯に存在するホールはゼロですが、室温(300K)だと熱の影響により価電子帯にホールが存在するようになります。つまり、電子の役割が理解できていれば、ホールの役割も理解出たも同然です。
伝導帯に存在する自由電子の数が多いほど電気は流れやすくなり、同様に価電子帯に存在するホールの数が多いほど電気流れやすくなる。
温度が上がればフェルミ-ディラック分布の形は変わり、価電子帯から伝導帯へ電子は移動しやすくなり、同様に伝導帯から価電子帯へホールは移動しやすくなる。これらの数が増えると電気は流れやすくなる。
したがって、伝導帯と価電子帯のキャリア密度(自由電子とホール)の値は、電気が流れやすいかどうかを決める重要な量の1つと言える。この求め方を見ていく。
具体的な例を見ていきながら感覚を掴んでいきましょう。
真性半導体の場合について考えて見ましょう(シンプルで扱いやすいので具体例をイメージするのにはこれで十分です)。
フェルミエネルギー\(E_F\)は禁止帯のほぼ真ん中にあり、バンドギャップのエネルギーの大きき差はほぼ1eV程度です。つまり伝導帯の底からフェルミエネルギー間\(E-E_F\)は0.5eV(500meV)程度です。\(k_BT\)は室温27℃(300K)で25.9meVのエネルギーを持ちます。つまり、\(E-E_F >>k_BT \)なので、\(\frac{E-E_F}{k_BT} >>1 \)となる。
故に\(e^{\frac{E-E_F}{k_BT}} >>e^1=e≒2.71828>1 \)であることがわかります。
$$f(E)=\frac{1}{1+e^{\frac{E-E_F}{k_BT}}}≈e^{-\frac{E-E_F}{k_BT}}・・・⑤$$
この形はマクスウェル-ボルツマン分布の形です。このように近似をすることで計算が楽になります。
同様に価電子帯の頂上近くにいるエネルギーEのホールに対しても\(E-E_F >>k_BT \)となるので、
$$1-f(E)=1-\frac{1}{1+e^{\frac{E-E_F}{k_BT}}}≈e^{-\frac{E_F-E}{k_BT}}$$
と近似することが出来る。
このフェルミ-ディラック分布をマクスウェル-ボルツマン分布へ近似したのには理由があり、フェルミ-ディラック分布をそのまま使うと積分をするのが非常に難しいです。また、マクスウェル-ボルツマン分布の近似で物理的に間に合う場合が殆どです。そのため、大学レベルの半導体工学の一般的な参考書ではフェルミ-ディラック分布をそのまま使うことは少ないです。③式と⑤式を④式に代入し、\(\hbar=h/2\)を利用すると、
$$n=\int_{E_C}^{∞}f(E)D_e(E)dE$$
$$=\frac{8\sqrt{2}π}{h^3}m^\frac{3}{2}e^{\frac{E_F}{k_BT}}\int_{E_C}^{∞}\sqrt{E-E_C}e^{-\frac{E}{k_BT}}dE$$
となります(※E-Ecと伝導帯の底からのエネルギーを考える必要があったため、De(E)にはE-Ecを代入した)。伝導帯の頂上付近ではマクスウェル-ボルツマン分布の確率はほぼゼロになるので、上限を∞にしても特に問題はありません。
この変数変換\(x=\frac{E-E_C}{k_BT}\)を行うと、
$$\frac{dx}{dE}=\frac{1}{k_BT}$$
$$∴dE=k_BTdx$$
故に積分は、
$$\int_{E_C}^{∞}\sqrt{E-E_C}e^{-\frac{E}{k_BT}}dE$$
$$(k_BT)^{\frac{3}{2}}e^{-\frac{E_C}{k_BT}}\int_{0}^{∞}\sqrt{x}e^{-x}dx$$
となります。
$$\int_{0}^{∞}\sqrt{x}e^{-x}dx=\frac{\sqrt{π}}{2}$$
の積分公式を使うと(暇な人はこの公式を自分で出してみてください)、
電子密度は\(n=2(\frac{2πmk_BT}{h^2})^\frac{3}{2}e^{-\frac{E_C-E_V}{k_BT}}\)となる。前の係数をまとめて、
$$N_C≡2(\frac{2πmk_BT}{h^2})^\frac{3}{2}$$
と定義すると、
$$n=N_Ce^{-\frac{E_C-E_F}{k_BT}}・・・⑥$$
となる。
この式の解釈は、伝導帯の底E=ECにNC個の電子状態が実効的に集中して存在していると仮定すると、それにマクスウェル-ボルツマン分布がかかっているとみなすことができます。我々は伝導帯の自由電子のエネルギーを考えているのでE-EF>0を考えていることになります。そのため、NC個の電子状態が伝導帯の底に集中的に存在していると考えて、それに温度に依存した確率を掛けてやると、求めたい電子密度が求まります。そこで、NCを伝導帯の実効状態密度と名付けます。図的に表すと以下のようになります。

同様の手順で価電子帯のホールの密度pも求められます。
$$p=\int_{-∞}^{E_V}(1-f(E))D_h(E)dE$$
$$≡N_Ve^{-\frac{E_F-E_V}{k_BT}}・・・⑦$$
図的には以下のようになります。

さて、この実効状態密度が何のためにあるかと気になります。理由は前回示した以下2つの図に比べて、モデルが単純になるからです。


もともとの状態密度(フェルミ-ディラック分布)だと、積分しないとキャリア密度が出ませんが、近似(マクスウェル-ボルツマン分布)を使って、簡単な形で積分をすることが出来ました。結果として、実効状態密で表すと積分は既に済んでいるので、キャリアの密度を⑥式や⑦式を使えば簡単に求められます。ちなみに、\(k_BT\)は127℃(400K)で34.5meVなので、この近似は割と広い範囲で使うことが出来ます。
真性半導体では、価電子帯にある電子が伝導帯へと上がることで自由電子とホールが出来る。このとき、伝導帯の電子密度nと価電子帯のホール密度pは等しいことがわかります。この密度を真性密度niと呼ぶことにすると、以下の関係が成り立ちます。
$$n=p=n_i・・・⑧$$
これより、\(n_i^2=np\)となります。熱平衡状態(熱的なやり取りがなく安定した状態)で成り立つこの関係を質量作用の法則と呼ぶ。この式に平方根を取って⑥、⑦式を代入すると、
$$n_i=\sqrt{N_CN_V}e^{-\frac{E_g}{2k_BT}}・・・⑨$$
が求まる。\(E_g=E_C-E_V\)はバンドギャップエネルギー。つまり、真性密度は物質の3の特性(バンドギャップエネルギー、伝導帯の実効状態密度、価電子帯の実効状態密度)と温度で決まる定数です。
電子密度とホール密度を質量作用の法則を理解しておくと、容易に求めることができることがわかります。
実験でバンドギャップエネルギーを測定する場合は、伝導帯にいる自由電子が光のエネルギーを放出して、価電子帯へと行き、ホールと再結合します。このとき、光を放出します(シリコンのような半導体は光りません)。この発光する光の波長を調べればバンドギャップエネルギーがわかります。

学生実験などでは⑨式の両辺に自然対数をとって以下のように変形します。
$$\rm{ln} n=\rm{ln} \sqrt{N_CN_V}-\frac{E_g}{2k_B}\frac{1}{T}$$
上の式で実験で求まる値は、キャリア密度と実効状態密度と温度です。ボルツマン定数は定数なので初めからわかっています。この式を縦軸\(\rm{ln} n\)、横軸を\(\frac{1}{T}\)、切片を\(\rm{ln} \sqrt{N_CN_V}\)にして、いくつか実験データを取りプロットを引きます。そうすると傾き\(-\frac{E_g}{2k_B}\)が求まり、求めたかったバンドギャップエネルギーを求めることが出来ます。
質量作用の法則によると、\(n=p\)の関係が成り立ち、これは伝導帯の自由電子の数と価電子帯のホールの数が等しいことを意味している。これは前のセクションで確認したことです。これを使うとフェルミエネルギー\(E_F\)も求めることが出来ます。フェルミエネルギーを求めることは伝導帯や価電子帯のキャリア数(電子密度とホール密度)を求めることに繋がります。そのため、フェルミエネルギーを求めることは重要です。
求め方は簡単で、\(n=p\)に⑥、⑦式を代入して両辺に自然対数を取り、\(E_F\)について解きます。このとき実効状態密度も代入します。ホールと電子の質量は有効質量として\(m_e^*,m_h^*\)と置きます。有効質量とは、例えば自由電子(ここでは運動エネルギー\(p^2/2m\)を持ち真空中で自由に動き回る電子のこと)を考える。通常なら、真空中を想像するかもしれないが、今我々が考えている自由電子とは半導体(バルク)あるいは結晶中での電子を考えている。これは決して真空状態ではなく、自由電子の周りには原子が存在する。

つまり、結晶内における電子は自由電子として自由に動きながらも原子核などによるポテンシャルの影響を受けている。この複雑なポテンシャルの影響を有効質量\(m_e^*,m_h^*\)に組み込むことによって、自由電子のように数学的記述をすることが出来る。なので、数学をやると、この有効質量のイメージは湧きやすいと思います。
話を戻して、\(E_V=0\)と価電子帯の頂上を0と原点にすると、求めたいフェルミエネルギーは、
$$E_F=\frac{E_g}{2}+\frac{3}{4}k_BT\rm{ln}\frac{m_h^*}{m_e^*}$$
と求まる。
エネルギーについて見ていくと、ホールの有効質量\(m_h^*\)は電子の有効質量\(m_e^*\)に比べて5~10倍あり、\(k_BT\)は300Kで25.9meVのエネルギーを持つ。一方、バンドギャップエネルギーの大きさは1eV=1000meV程度なので、第1項と第2項を比べると第2項が無視できるくらい第1項が大きい。したがって、真性半導体のフェルミエネルギーは伝導帯と価電子帯の中央に位置することがわかる。
第1講の最後にn型半導体とp型半導体の紹介を致しました。ここでは復習も含めて理解を深めていくことにします。
これまでは真性半導体に絞ったお話を展開してきました。理由としてはシンプルな構造で説明をしやすいからです。真性半導体では、室温で伝導帯に自由電子(価電子帯にホール)が存在します。しかし、我々の身近に溢れている金属などに比べると、電子数が遥かに少ないです。電子数が少ないということは電気があまり流れないということを意味しています。これは電気抵抗が大きいからです。なので、これは電気を流すデバイスとして使うには適切ではありません。そこで電気が流れやすいように半導体に人工的な細工を施します。この細工を施された半導体をn型半導体、p型半導体と言います。これらの半導体は化合物半導体とも言われ、2種類以上の元素で構成されています(真性半導体は1種類の元素)。
最初にn型半導体から説明をする。IV族元素のSiを例に使います。Si元素の中にV族元素を混ぜて見ましょう。すると以下の図のように、電子が1つ余ります。

IV族元素の最も外側には4つの電子が配置されている(最外殻電子が4個)。V族元素の最も外側には5つの電子が配置されている(最外殻原子が5個)。最外殻元素が8個あれば元素は安定するので、IV族のSiはSi同士で共有結合をすることで最外殻電子が8個あるように振舞うことができ、安定して存在する。ここに1つだけV族原子を入れてみたのが上図である。V族原子は最外殻電子が5個なので当然1つだけ余ってしまう。通常この電子は、原子核のクーロン力(この電子を束縛する力)に引かれて、この周りを回っています。この余った1個の電子が自由に動いてくれれば、電気の流れやすい半導体を作ることが出来ます。この電子はクーロン力の束縛にあるので、伝導帯の底より少し下のエネルギー準位にいます。このエネルギーをドナー準位と言います。クーロンエネルギーは数十meV程度なので、室温では熱エネルギーを電子が貰い伝導帯へと上がって自由電子として自由に動き回ります。
したがって、ドープ量(混ぜる量)を多くすると、電気の流れやすい半導体が出来ます。この半導体は負の電荷(negative)である電子が多数あるので、n型半導体と呼びます。そして、n型半導体を作るために混ぜたV族の原子のことをドナーという。医療の世界で移植というものがあります。これは提供者(ドナー)が受給者(レシピエント)に臓器などを移し植える医療行為です。半導体の場合、V族の原子が電子を供給するのでドナーと呼ばれます。
p型半導体はその反対です。つまり、正(positive)の電荷であるホールが多数ある半導体です。IV族(最外殻電子が4個)のシリコン原子にIII族の元素(最外殻電子が3個)をドープします。最外殻電子が8個で安定しますが、この場合は最外殻電子が7個で1個だけ電子が足りません。これがホールと呼ばれているものの正体です。実は正の電荷をもつ粒子が存在しているというわけではなくて、1個負の電荷が足りずに出来た空白を、正の電荷を持った粒子としてホールを扱っています。

Siの原子核とIII族の原子核(正の電荷である陽子の数)を比較すると、III族元素の方が正の電荷が1つ少ないです。つまり、絶対零度ではIII族元素のクーロン力で惹きつけられ、ホールがプラスの電荷としてIII族元素周辺に束縛されています。このエネルギー(軌道)をアクセプタ準位と呼びます。温度が上がると、このクーロン力を振り切って価電子帯にホールが上がります。そして、価電子帯にホールの数が増えると電気は流れやすくなります。このp型半導体を作るIII族の原子をアクセプタと呼ぶ。他の原子の電子を受け入れる(accept)ので、アクセプタと呼びます。
ドナー準位やアクセプタ準位のエネルギーの位置を以下に図示する。絶対零度ではこの位置に電子やホールが存在し、室温になることで熱エネルギーを受け取り、伝導帯や価電子帯へと上がる。これらのエネルギー差は数十meVなので、そのくらいの熱エネルギーを電子またはホールが受けとり、伝導帯あるいは価電子帯へと上がる。

ここで注意されたいのは、電子が抜けた後のドナー原子はプラスに帯電する(同様に価電子帯にある電子がアクセプタ準位へと上がると価電子帯にホールが出来る。そしてアクセプタ原子は負に帯電する)。これをイオン化という。なのでこのイオン化に必要な数十meVのエネルギーをイオン化エネルギーという。
ドナーやアクセプタのような不純物を混ぜた半導体のことを不純物半導体や化合物半導体と呼びます。これまでは真性半導体についてのキャリア密度について考えてきた。
次は不純物半導体のキャリア密度について考えることにする。まずはドナーだけがドープされた場合を考える(アクセプタだけがドープされた場合も同じ)。
ドナーのエネルギー準位は伝導帯の近くにあり、このわずかな数十meVのエネルギー差(イオン化エネルギー)を受け取って、電子が伝導帯に上がると自由電子として動き回ることが出来る。
統計力学を用いることでドナー準位から伝導帯に上がる電子の数を調べることが出来ますが、ここでは近似を用いる。
近似としては、n型半導体の伝導帯のキャリア密度nも真性半導体と同じく④式で表せると考える。
$$④=n=\int_{E_C}^{∞}f(E)D_e(E)dE$$
$$\int_{E_C}^{∞}\frac{1}{1+e^{\frac{E-E_F}{k_BT}}}D_e(E)dE$$
近似として、この式を用いましたが、この式はあくまで真性半導体を記述するのに適した式です。多数のドナー準位の効果をこのままでは反映出来ていません。そこで、実際のn型半導体の電子密度と等しくなるようにフェルミエネルギーを選ぶ必要があります。
このフェルミエネルギーはドナーの効果を反映させた便宜的なもので、疑フェルミエネルギー(あるいはn型半導体のフェルミエネルギー)と呼ばれます。疑フェルミエネルギーという言葉は、電圧がかかったり、光が照射されたりして過剰なキャリアがある場合に限定して使われます。
ドナー準位が多数あると、伝導帯へ上がれる電子も多数ある。④式の真性半導体のモデルをこの式で説明しようとすると、以下の図のように疑フェルミエネルギー\(E’_F\)を伝導帯の底の方へ近づけて、自由電子の存在確率を増やす必要がある。真性半導体の場合はこのフェルミエネルギー\(E_F\)は伝導帯の底と価電子帯の頂上のほぼ真ん中に位置しています。今回はドナーがドープされているので、半導体の疑フェルミエネルギーは伝導帯の近くにあります。

上図の右の網部分が電子密度nのエネルギー分布を表します。この形はpn接合の図に何度も現れますので、イメージだけでも忘れずに。
例として、n型半導体の各ドナー原子が全てイオン化している場合を考える。つまり、全てのドナーから電子が伝導帯へ上がっている場合を考えている。この疑フェルミエネルギーを求める\(E’_F\)を求める。
ここで、ドナー密度\(N_D\)は、価電子帯から伝導帯に上がっている電子の密度より十分大きいとする。つまり、自由電子の殆どがドナー準位から上がってきたものなので、伝導帯のキャリア密度\(n\)とドナー密度\(N_D\)に等しく、\(n=N_D\)と書けます。
(実際にはここまで都合がいい訳ではありません。Si(シリコン)にP(リン)やAs(ヒッ素)などをドナーとしてドープするとイオン化エネルギーは40~50meVぐらいあり、室温で\(k_BT\)は25.9meVと比較的小さいです。\(k_BT\)は室温300Kの熱エネルギーです。つまり、40~50meVを得て伝導帯へと電子が上がるわけですから、室温300K(27℃)だと若干エネルギー不足なのです。なので、全てのドナー原子がイオン化しているとは言えません。しかし、今は特例中の特例として全てのドナー原子がイオン化した場合を考えましょう。)
$$N_D=n=\int_{E_C}^{∞}f(E)D_e(E)dE$$
$$=\int_{E_C}^{∞}\frac{1}{1+e^{\frac{E-E’_F}{k_BT}}}D_e(E)dE$$
$$≈\frac{8\sqrt{2}π}{h^3}(m_e^*)^{\frac{3}{2}}e^{\frac{E’_F}{k_BT}}\int_{E_C}^{∞}\sqrt{E-E_C}e^{-\frac{E}{k_BT}}dE$$
$$=N_Ce^{-\frac{E_C-E’_F}{k_BT}}$$
と書ける。3式目の≈は近似です。ずっと前のセクションでも行いましたが、室温においてエネルギーを比較すると、E-E’F>>kBT(ちょっと強引な気がします。伝導帯へ疑フェルミエネルギーを近づけたので>>とはとても言えません。だから、めちゃくちゃ粗い精度の疑フェルミエネルギーを見積もっていると思ってください)なので、
$$f(E)=\frac{1}{1+e^{\frac{E-E’_F}{k_BT}}}≈e^{-\frac{E-E’_F}{k_BT}}$$
となる。基本的な流れは⑤式と同じです。この形はマクスウェル・ボルツマン分布です。
$$∴ N_D=N_Ce^{-\frac{E_C-E’_F}{k_BT}}$$
両辺に自然対数を取り、\(E’_F\)について解きます。結果は
$$E’_F=E_C+k_BT\rm{ln}\frac{N_D}{N_C}$$
です。これで疑フェルミエネルギーが求まりました(かなり粗い近似です)。
この疑フェルミエネルギーが伝導帯から比べてどのあたりにあるのか考えて見ましょう。
ドナー密度\(N_D\)は通常は伝導帯の実効状態密度\(N_C\)より小さいので、これは負の項になります。
(例えば正の整数A,BがA>B>e=2.718……のとき、
$$\rm{ln}\frac{B}{A}=\rm{ln}(\frac{A}{B})^{-1}=-\rm{ln}\frac{A}{B}$$
と対数の項に-が付きます)
同様にして、
$$\rm{ln}\frac{N_D}{N_C}=-\rm{ln}\frac{N_C}{N_D}$$
となります。室温300Kなので\(k_BT\)は25.9meV、疑フェルミエネルギーE’Fの右辺の対数の項は数十meVから100meV程度になります。つまり、伝導帯の底のエネルギー\(E_C\)から数十meVから100meV程度下に疑フェルミエネルギー\(E’_F\)があることになります。
ここではn型半導体の疑フェルミエネルギーを求めましたが、同様の手順を踏めばp型半導体の疑フェルミエネルギーも価電子帯の頂上の数十meVから100meV程度上に位置します。もちろん、この場合の計算には、n型半導体とp型半導体で別々の疑フェルミエネルギーを定義して計算する必要があります。n型の場合は、伝導帯の底に近くなるような疑フェルミエネルギーを設定して、p型の場合は価電子帯の頂上に近くなるような疑フェルミエネルギーを設定する必要があります。ここら辺が、真性半導体の場合と異なります(伝導帯と価電子帯の中間にフェルミエネルギーがある)。
これで伝導帯や価電子帯のキャリアの数を求めることができました。故に、このセクションの目標は達成されました。次はキャリアを動かすことを考えて見ましょう。具体的には半導体に電気を流す場合について見ていきます。
参考文献

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