- ルベーク積分の定義
- ルベーク積分の性質
- 項別積分定理
- 悪魔の階段積分について
可測集合\(E上で≧0\)となる可測関数を正値関数とよぶ。
正値関数のお話をしたのはルベーク積分の定義の第一歩として必要だからである。
ルベーク積分の定義は、最初に正値関数に対して行う。
次に正値関数でない関数へ定義を拡張していく。
まず、\(E上の正値関数f\)に対して、
\(単純関数0≦\varphi (x) ≦ f(x)の積分 \int_E \varphi (x)dxの上限が有限であるとき\)、
それを\(\int_E f(x)dxで表し、fをE上で\)積分可能と呼ぶ
次に正値関数でないものについて考える。
これは上記で正値関数の積分についての定義をしたので、次は正値関数を使って正値関数でない積分に拡張をする。
\(f^+ = \textrm{max} \{ f(x), 0 \},\quad f^- (x) =\textrm{max} \{ -f(x),0 \} \)
と定め、両者共に積分可能のとき、積分可能と定める。
つまり、\(\int_E f(x)dx= \int_E f^+ (x) dx – \int_E f^- (x) dx\)とする。
ちなみに、\(f^+,f^-\)の意味がいまいちの方は、例として\(\textrm{max} \{2,-9 \} = 2\)を見て頂けるとわかると思います。\(f^+,f^-\)と定めたのは、
\(f\)が正値関数のときは\(f^+=f(x),f^-=0\)が選ばれ積分される。
\(f\)が正値関数でないときは\(f^-=-f(x),f^+=0\)が選ばれ積分される。
こうすることで\(f^+,f^-\)はともに正値関数として扱え、定理4.17から可測であることがわかる。
また、\(f(x)=f^+(x)-f^-(x)\)であることにも指摘をしておく。
当然関数の絶対値については\(|f(x)|=f^+(x)+f^-(x)\)となるのでこれにより、次の定理が得られる。
この定理がかなり重要な部分となります。
定理6.1.
\(fが可測のとき、f,|f|は一方が積分可能なら他方もそうである。\)
積分値としてはリーマン積分の場合と同じことが成立する。
定理6.2.
\(fがE上で積分可能なら、|\int_E f(x) dx| ≦ \int_E |f(x)|dxである。\)
証明.
\(|\int_E f(x) dx|=|\int_E f^+ (x) dx – \int_E f^- (x) dx|\)
\(≦\int_E f^+ (x) dx + \int_E f^- (x) dx = \int_E |f(x)|dx\) □
リーマン積分は原則、有界閉区間上の有界な関数を取り扱う。
ルベーク積分は閉区間でも開区間でもよく、有界である必要はない。さらに、測度0の部分を積分範囲から取り除き、区間でない集合の積分も取り扱える。
なので従来の記号も普通に使うことができる。
例えば、\(\alpha < \betaのとき、\int_\alpha ^\beta f(x)dx\)はルベーク積分では次を表す:
\(\int_{[\alpha,\beta]} f(x)dx=\int_{(\alpha,\beta)} f(x)dx=\int_{[\alpha,\beta)} f(x)dx=\int_{(\alpha,\beta]} f(x)dx\)
積分をするとこれらの値が全て同じ値であることは、
例えば、\([\alpha,\beta] \backslash (\alpha,\beta)= \{\alpha, \beta \} \)が2点だけからなり、これは測度0であるので後の定理6.12と定理6.3から導かれる。
ルベーク積分で取り扱える関数の範囲はリーマン積分に比べてかなり広い。
定理6.3.
\(\mu (E)=0なら、任意の可測関数fに対して\int_E f(x) dx=0である。\)
定理6.4.
有界な可測関数は有限測度の集合上で積分可能である。
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
証明を結構略しますが、ここら辺は定理を見ているだけで面白いのですが、余力がある方は証明も理解しておくとよいかと思います。
正値関数の基本性質として定義から次がわかる。:
定理6.5.
(1)\(gが可測関数で0≦g≦fであれば\int_E g(x)dx≦\int_E f(x)dx\)
(2)\(可測集合F \subset Eに対しては\int_F f(x)dx ≦\int_E f(x)dx\)
(3)\(可測集合F \subset Eに対しては\int_F f(x)dx =\int_E (f・\chi_F)dx\)
(4)\(\int_E f(x)dx=0ならf(x)=0\quad a.e. \quad \textrm{on} \quad E\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
正値関数でない場合(定理6.6~6.8)、定理6.1と定理6.5の(1),(2)より次がわかる。:
定理6.6.
\(fがE上で積分可能であるとき\)、
(1)\(可測関数gは|g|≦f,\quad \textrm{on} \quad Eなら、E上で積分可能である。\)
(2)\(F \subset Eが可測集合なら、fはF上で積分可能である。\)
証明.略
さらに、
定理6.5の(3)は、\((f・\chi_F)^+ = f^+・\chi_F,\quad (f・\chi_F)^- =f^-・\chi_F\)であるので、
正値でない関数に対してもそのまま成立する。:
定理6.7.
\(可測集合F \subset Eに対しては\int_F f(x)dx =\int_E (f・\chi_F)dx\)
証明.略
最後に定理6.5の(4)は正値関数でない場合は次の形で成立する。:
定理6.8.
\(\mu (E) >0、fがE上で積分可能で、かつ全ての可測集合S \subset Eに対して、\)
\(\int_S f(x)dx=0であれば、f=0 \quad a.e. \)
証明.略
正値関数\(f\)の積分は単純関数\(\varphi ≦ f\)の積分の上限として定義される。
一方、定理5.1から\(f\)は単純関数の極限として定義される。
次の定理はこの2つのギャップを埋める。これを単調収束定理と呼ぶこともある。
定理6.9.
\(可測集合E上で正値関数f_1,f_2,…,f_n,…と定数Kが与えられていて、\)
\( \{ f_n\)\( \}_n \)↗\( f \)かつ \(\int_E f_n(x)dx<K\quad \textrm{for all }n\)
であるなら、\(fは積分可能で\lim_{n→∞} \int_E f_n (x)dx = \int_E f(x)dx \)
証明.略
この定理を用いることで下記のような関数も積分できる。
\(\int_{-1}^1 (1-|x|)dx\)
高校生のときのように普通に計算すれば、対称性や絶対値の符号に注意すると
\(\int_{-1}^1 (1-|x|)dx=2\int_{0}^1 (1-x)dx=1\)と計算できますが、
今回はルベーク積分の定理6.9というものを例を通して理解したいので下記のように考えます。

順に考えていくと、
\(y軸上の区間[0,1]を2^n等分する。\)
単純関数を下記のように定める。
\(\varphi_n (x) =1-\frac{k}{2^n} \textrm{ for } \frac{k-1}{2^n}≦|x|<\frac{k}{2^n},\quad k=1,2,…,2^n-1,2^n\)
すると、\(n→∞\)としたとき、上図の短冊の値域は細かく分割されたピラミッドのようになるので、
単純関数は\(\{ \varphi \}\)↗\((1-|x|)\)へと近づいていく。
よって、
\(\int_{-1}^1 (1-|x|)dx=\lim_{n→∞}\int_{-1}^1 \varphi (x) dx= \lim_{n→∞} \frac{2}{2^n} \sum_{k=1}^{2^n-1} (1-\frac{k}{2^n})=1\)
と計算できる。
\(\lim_{n→∞} \frac{2}{2^n} \sum_{k=1}^{2^n-1} (1-\frac{k}{2^n})\)の2は対称性、\(\frac{1}{2^n}はdx\)、
\(\sum_{k=1}^{2^n-1} (1-\frac{k}{2^n})\)は短冊の値域に該当するということになる。
ルベーク積分の定理や性質などを見ているとリーマン積分で使っていたものとほとんど同じものを見かけます。
ここではその基本性質の紹介についてしていこうと思います。
定理6.10.
\(可測集合E上の積分可能関数f・gに対して次が成り立つ。\)
(1)\(cが定数なら\int_E f(x)dx=\int_E (cf(x))dx\)
(2)\(\int_E ( f(x)+g(x))dx =\int_E f(x)dx+\int_E g(x)dx\)
(3)\(g≦fなら\int_E g(x)dx ≦\int_E f(x)dx\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
関数の平行移動に関しては下記が成り立つ。
定理6.11.
\(Eが可測集合でkが定数のとき、fがE+k上で積分可能であれば、\)
\(\int_E f(x+k)dx = \int_{E+k} f(x)dx\)
証明.略
次の定理はリーマン積分の下記の公式のルベーク積分バージョンである。
\(\int_{\alpha}^{\beta} f(x)dx = \int_{\alpha}^{\lambda}f(x)dx+\int_{\lambda}^{\beta} f(x)dx \)
定理6.12.
\(fは互いに素な有限個の可測集合E_1,E_2,…,E_nのそれぞれの上で積分可能なら、\)
\(和集合E=\bigcup_{k=1}^n E_k の上でも積分可能で、\)
\(\int_E f(x)dx =\sum_{k=1}^n \int_{E_k} f(x)dx\)
となる。
可算個の\(E_n\)の場合については、定理6.22参照されたい。
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
さらに次も成り立つ。
定理6.13.
\(fが積分可能でg=f\quad a.e.ならgも積分可能で\int_E g(x)dx=\int_E f(x)dx\)
定理6.5(4)および定理6.13から次がわかる:
系6.14.
\(可測集合E上の積分可能関数fに対しては\)
\(f=0 \quad a.e. \leftrightarrow \int_E |f(x)|dx=0\)
第8講で不定積分の絶対連続性についた内容を取り扱う際に下記の定理は重要である。
定理6.15.
\(可測集合E上の積分可能関数fと\varepsilon >0に対して\delta >0が定まり、\)
\(S \subset E \textrm{ and } \mu (S) < \delta \longrightarrow \int_S|f(x)|dx < \varepsilon \)
となる。
証明.略
項別積分定理とは、一般に何らかの条件の下で下記のような主張をする定理のことです。
\(\lim_{n→∞} f_n (x) = f(x) \)⇒\(\lim_{n→∞} \int_E f_n (x)dx = \int_E f(x)dx\)
項ごとに積分しているという事です。
今回まとめる内容はルベーク積分に関する項別積分です。
リーマン積分では、\(\lim_{n→∞} f_n(x) =f(x)\)は一様収束であるという条件下のみで成立が証明されている。
ルベーク積分では、この条件が不要となります。
定理6.16.
\(正値積分可能関数f_1,f_2,…,f_n,…が与えられ\)
\(\{ f_n \}_n \)↗\( f \quad a.e. \quad かつ\quad \int_E f_n (x) dx<K \textrm{ for all } n\)であるなら、
\(fは積分可能で\lim_{n→∞} \int_E f_n(x)dx = \int_E f(x)dx\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
上の補題の仮定部分について次が成立する。
定理6.17.
\(正値積分可能関数f_1,f_2,…,f_n,…と定数Kが与えられ\)
\(\{ f_n \}_n \)↗\( f \quad a.e. \quad かつ\quad \int_E f_n (x) dx<K \textrm{ for all } n\)となるなら、
\(\lim_{n→∞} f_n (x) < ∞ \quad a.e.\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
定理6.18.(単調収束定理)
\(正値積分可能関数f_1,f_2,…,f_n,…と定数Kが与えられ\)
\(\{ f_n \}_n\) ↗ \( \quad a.e. \quad かつ\quad \int_E f_n (x) dx<K \textrm{ for all } n\)
か、または
\(\{ f_n \}_n \)↘\( \quad a.e. \quad かつ\quad \int_E f_n (x) dx<K \textrm{ for all } n\)
であるなら、
\(\{ f_n \}_n \)はほとんどすべての\(x\)に対して有限値に収束する。
\(そしてその値をf(x)と表すと、関数fは積分可能で\int_E f(x)dx = \lim_{n→∞} \int_E f_n (x)dx\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
次は定理は、1906年のPierre Fatouの博士論文に収録されているものである。
定理6.19.(Fatouの補題)
\(正値積分可能関数f_n,n=1,2,…,に対して次が成り立つ\)
\(\int_E ( \lim_{n→∞} \textrm{ inf } f_n (x) ) dx ≦ \lim_{n→∞} \textrm{ inf } \int_E f_n(x)dx\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
次の講別積分定理は極めて強力であり、ルベークの項別積分定理とも呼ばれている。
フーリエ解析は多くの局面でこの定理に依存している。
定理6.20(優収束定理).
\(積分可能関数f_n,gが与えられ、\)
\(\lim_{n→∞} f_n(x)=f(x)\quad a.e. \quad かつ|f_n(x)|≦g(x)\quad a.e.であれば、\)
\(fは積分可能で\int_E f(x)dx=\lim_{n→∞} \int_E f_n(x)dxとなる。\)
証明.略
\(gが定数関数のときは上記の定理は次のようになる。\)
定理6.21(有界収束定理).
有限測度の集合\(E上でf_nが積分可能で\)
\(\lim_{n→∞}f_n (x)=f(x) \quad a.e.\quad かつ|f_n(x)|≦K \quad a.e.\)であれば、
\(fは積分可能で\int_E f(x)dx=\lim_{n→∞}\int_E f_n (x)dx \)
証明.略
優収束定理の応用として次が示される。
これは定理6.12.と違い、関数は各\(E_n上で積分可能でも和集合E上で積分可能とは主張できない。\)
定理6.22.
\(fが可測集合Eで積分可能で、\)
\(Eが互いに素な可算個の可測集合E_1,E_2,…,E_n,…の和集合なら\)、
\(\int_E f(x)dx=\sum_{n=1}^∞ \int_{E_{n}} f(x) dx\)
証明.略
無限級数の項別積分については次の定理が成立する。
定理6.23.
積分可能関数\(f_n\)が与えられ\(\sum_{n=1}^∞ \int_E |f_n(x)|dx\)が収束するなら、
\(\sum_{n=1}^∞ |f_n(x)|\)がほとんど至るところで収束し、
\(\int_E ( \sum_{n=1}^∞ f_n(x) )dx=\sum_{n=1}^∞ \int_E (\int_E f_n (x)dx)\)
証明.略
定理6.24.
可測集合\(E_nについてfが\bigcup_{n=1}^∞ E_n で積分可能で、\)
\(\{ E_n \}_n \)↗\( Eまたは\{ E_n \}_n\) ↘\(Eであるなら\)
\(\int_E f(x) dx=\lim_{n→∞} \int_{E_{n}} f(x)dx\)
証明.略
第五講でおこなった悪魔の階段\(\gamma\)の積分は、
\(\int_{0}^{1} \gamma (x)dx=\frac{1}{2}\)である。

これを見るために、
\(B_{n,i}=(\sum_{k=1}^{n-1} \frac{c_k}{3^k}+\frac{1}{3^n}, \sum_{k=1}^{n-1}\frac{c_k}{3^k}+\frac{2}{3^n})\)のとき、
\(s_{n,i}=\sum_{k=1}^{n-1}\frac{c_k}{2^{k+1}}+\frac{1}{2^n}\)とおいて、
単純関数を下記のようにとる。
\(\varphi_1 =s_{1,1}\chi_{B_{1,1}}=\frac{1}{2}\chi_{B_{1,1}}\)
\(\varphi_n=\varphi_{n-1}+\sum_{i=1}^{2^{n-1}} s_{n,i}\chi_{B_{n,i}}\)
これにより、\(\{ \varphi_n \} \)↗\( \gamma \textrm{ } a.e.\)
そして、
\(\int_{0}^1 \varphi_n(x)dx -\int_{0}^1 \varphi_{n-1}(x)dx\)\(=\frac{1}{3^n}\sum_{i=1}^{2^{n-1}}s_{n,i}\)
\(=\frac{1}{3^n}\sum_{k=1}^{2^{n-1}}\frac{2k-1}{2^n}\)\(=\frac{2^{n-2}}{3^n}\)
であるので、
\(\int_{0}^1\varphi_1 (x)dx=\frac{1}{3}\frac{1}{2}=\frac{1}{6}\)
を用いて、
\(\lim_{n→∞}\int_{0}^1 \varphi_n (x)dx = \frac{1}{6}+\frac{1}{3^2}+\frac{2}{3^3}+…+\frac{2^{n-2}}{3^n}+…=\frac{1}{2}\)
となる。
これにより\(\int_{0}^{1} \gamma (x)dx=\frac{1}{2}\)が得られる。
