- 単純関数
- 単純関数のルベーク積分
- ほとんど至る所で微分可能ならば可測関数であるというお話
- 特異関数
- 可測集合、可測関数に関する反例
第1講でルベーク積分に関するアウトラインを述べたがここではそこの部分の続きのお話をする。
まずは単純関数についてのお話。
可測集合上の関数\(\varphi\)が単純関数あるいは単関数であるとは、
値域が有限集合\(\subset (-∞,∞)\)である可測関数である。
つまり、有限個の値\(-∞ < k_1,k_2,・・・,k_n<∞\)・・・①
しかとらず、
かつ、
各値の逆像\(S_i = \varphi^{-1} (k_i) = \{ x : \varphi (x) =k_i \}\)・・・②
が可測であるもののことである。

第一講でも見たと思うが図で書くとこのような感じである。
可測集合\(S\)の特性関数は単純関数の1つである。
\(\chi_S(x)=\begin{cases} 1 \quad x \in S & \\ 0 \quad x \notin S & \end{cases}\)
\(S\)は必ずしも区間ではないが、この関数の模式図は以下のようになる。

特に\( \mathbb{Q}の特性関数\chi_ \mathbb{Q}は最初の提唱者の名前を取り\)Dirichlet関数と呼ばれる。
さて、これまでにお話した値域とその逆像がそれぞれ①、②である単純関数\(\varphi\)は特性関数を用いれば次のように表現される。
\(\varphi (x) = \sum_{i=1}^n k_i・\chi_{S_i}(x)\)
単純関数は文字通り単純な可測関数であるが、複雑な一般の可測関数をコントロールする。
定理5.1.
関数\(fが可測であれば、単純関数\varphi_1, \varphi_2,\varphi_3,・・・\)が取れて、
\(f(x)=\lim_{n→∞} \varphi_n (x)\)
となる。
もし\(f(x)が下に有界であれば、\)\(\varphi_1 ≦ \varphi_2 ≦・・・\)と取れる。
さらにもし\(fが上にも有界ならば、\)
\(各nに対して0≦f(x)-\varphi_n (x) <\frac{1}{2^n} \) for all \(x\)と取れる。
証明.
まずは\(fの値域を[-n,n]で切り落とす。\)
次に、\([-n,n]の区間を2^n等分し、\varphi _n\)を作る。
そうすると、値域は\(-n<\frac{k}{2^n}<n\)のように考えることができる。
\(\varphi_n(x)=\begin{cases} \frac{k}{2^n} \qquad \textrm{if} \quad \frac{k}{2^n} ≦ f(x) < \frac{k+1}{2^n} \\ n \qquad \textrm{if} \quad f(x)≧ n \\ -n \qquad \textrm{if} \quad f(x)< -n+\frac{1}{2^n} & \end{cases}\)

上図を見て頂くとわかる通り、\(\varphiは明らかに単純関数である\)
\(|f(x)|<nを満たすxに対しては\)
\(|\varphi_n(x) – f(x) | < \frac{1}{2^n}\)
であるので、\(\lim_{n→∞} \varphi_n(x) = f(x)\)となる。
また、\(\varphi_n(x) ≦ \varphi_{n+1} (x) \quad \textrm{if} \quad f(x) ≧ -n\)であるので、
\(f(x)≧Kとなる定数Kがあるなら、\)
\(\{ \varphi_n \}_nはn≧|K|のとき単調増加である。\)これに注目すれば後半が得られる。□
次に述べる定理は重要である。
可測関数は必ずしも連続ではない。ただ、定義域を制限すれば連続である。
これが次の定理である。これはロシアの数学者Nikolai Nikolaevitch Luzinによって証明がされたのでLuzinの定理と呼ばれている。
定理5.2.(Luzinの定理)
可測集合\(S\)で定義された関数\(f\)が可測であるための必要十分条件は、
任意の\(\varepsilon>0\)に対して閉集合\(H \subset S\)が定まり、
\(\mu (S \backslash H) < \varepsilon \quad\) かつ,\( f↾Hは連続\)
となることである。
\(f↾Hはfの定義域をHに制限した関数を表す。\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
Luzinの定理の結論部分の注意事項を述べる。
それは\( f↾Hは連続をfはHの各点で連続\)と混同してはいけない。
ということである。
なぜなら、前者は、
\(x \in H, \quad x_n \in H, \quad x=\lim x_n ⇒f(x)=\lim f(x_n)\)
後者は、
\(x \in H, \quad x_n \in S, \quad x=\lim x_n ⇒f(x)=\lim f(x_n)\)
と表現される。
単純関数\(\varphi\)の値域が\(k_1,k_2,・・・,k_n\)であり、
その逆像が\(S_i=\varphi^{-1}(k_i),\quad i=1,2,・・・,n\)であるとき、
可測集合\(E\)の上のルベーク積分を第一講と同様に下記のように定める。
\(\int_E \varphi (x)dx = \sum_{i=1}^n k_i・\mu (E\cap S_i)\)

ここで重要なこととして、
\( k_i ≠0かつ\mu (E \cap S_i)=∞\)となる\(i\)がるときは\( \varphi\) は\(E\)で積分不能と呼ぶ。
それ以外のときは積分可能と呼ぶ。
また、\(k_i=0かつ\mu (E \cap S_i)=∞のときはk_i \mu (E \cap S_i) =0と考える\)。
つまり、0×∞=∞×0=0となるように考える。
注意として、これらは測度論以外の場で通用するわけではないので安易に一般の数列や関数の極限計算などに応用はしない方がよい。それは、測度論の歴史的な流れから認識されてきたものであるからである。
また特性関数に対しては、\(\int_E \chi_S(x)dx=\mu (S \cap E)\)となる。
補題5.3.
\(\varphi , \psi がEで積分可能な単純関数であるとき次が成立する。\)
(1)\(cが定数ならc\int_E \varphi (x)dx=\int_E c \varphi (x)dx\)
(2)\(\int_E (\varphi (x)+\psi (x))dx=\int_E \varphi (x)dx+\int_E \psi (x)dx\)
(3)\(\varphi ≦ \psi \quad \textrm{on} \quad Eなら\int_E \varphi (x)dx≦\int_E \psi (x)dx\)
(4)
\(E_1,…,E_nが互いに素な可測集合でE=E_1 \cup … \cup E_nであれば、\)
\(\int_E \varphi (x)dx=\int_{E_1} \varphi (x)dx+…+\int_{E_n} \varphi (x)dx\)となる.
(5)\(定数kに対して、\int_{E-k} \varphi (x+k)dx = \int_{E} \varphi (x)dx\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照
ここではほとんど至る所でalmost everywhereという部分について着眼する。
まずは下記の補題から見ていく。
補題5.4.
積分可能な単純関数の単調増加列\(0≦\varphi_1(x) ≦ \varphi_2(x)≦…\)が与えられたとき、
もし\(\int_E \varphi_n (x)dx <K \quad \textrm{for all} \quad n\)となる定数\(K\)があるなら、
可測集合\(S \subset E\)が取れて
(1)\(\mu (S) =0\)
(2)\(各x \notin S に対して、\lim_{n→∞} \varphi_n (x)は収束する。\)
となる。
証明.
まず、\(S=\{ x \in E : \lim_{n→∞} \varphi_n (x)=∞ \} \)とおく、
これに対して\(Sが可測で、かつ\mu(S)=0\)を示せばよい。
そこで、\(k>0を任意に取り、S_n=\{ x \in E : \varphi_n(x)>k \} \)とおくと、
\(S_1 \subset S_2 \subset … かつ S \subset \bigcup_{n=1}^∞ S_n \)であり、
また、\(k・\mu(S_n) = \int_{S_n} kdx ≦ \int_{S_n} \varphi_n (x) dx ≦ \int_E \varphi_n (x) dx <K\)となるので、
\(\mu (S_n)< \frac{K}{k}\)となり、定理4.12より、
\(\mu (S) =\lim_{n→∞} \mu (S_n) ≦\frac{K}{k}\)
となる。
ここで\(k→∞\)とすれば、測度0であることがわかる。したがって\(S\)が可測で測度0であることが結論できる□
この補題の結論において重要な部分は集合\(S\)について測度0という情報である。
これは下記のように述べることができる。
\(測度0の部分を除いて、\lim_{n→∞} \varphi_n (x) <∞\)
そして、このような同様な事態がルベーク積分論ではよく起こる。
なので、
一般にある条件\(P(x)\)を満たさない点\(x\)全体の集合の測度が0であるとき、
ほとんどすべての\(xに対してP(x)が成り立つと考え、\)
ほとんど至るところで\(P(x)\)が成り立つ、数式では\(P(x) \quad a.e.\)と表す。
ここで\(a.e.とはalmost \quad everywhere\)を意味する。
Dirichlet関数\(\chi_ \mathbb{Q} \)に対しては、\(\mu (\mathbb{Q} ) =0\)なので(第3講外測度0の集合参照)、
\(\chi_ \mathbb{Q} (x) = 1 \quad a.e. \)である。
これにより補題5.4は次のように述べることができる。
補題5.5.
積分可能な正値単純関数\(\varphi_1 , \varphi_2 , … , \varphi_n , …と定数Kが与えられ\)、
\( \{ \varphi_n \}\) ↗ かつ\(\int_E \varphi_n (x)dx < K \quad \textrm{for all } \quad n\)となるから、
\(\lim_{n→∞} \varphi_n (x) <∞\quad a.e. \)・・・⁂
である。
⁂は、”ほとんど至るところで\(\{ \varphi_n \}\)は収束する”を意味する。
これを\(\{ \varphi_n \} \)は概収束すると述べることもある。
証明.補題5.4参照.
定理5.6.
\(fが可測でf=g\quad a.e.であればgは可測である\)
証明.
\(f,gの共通の定義域をEとし、\)
\(S= \{ x \in E : f(x)≠g(x) \} \)とすると\(\mu (S)=0\)である。
\(fが可測であるから \{ x \in E \backslash S : g(x) >c \} = \{ x \in E \backslash S : f(x) >c \}\)
は可測であり、また
\(\{ x \in S : g(x)>c \} もSの部分集合なので、定理4.2から可測で、測度0である。\)
よって、
\(\{ x \in E : g(x)>c \} = \{ x \in E \backslash S : f(x) >c \} \cup \{ x \in S : g(x) >c \}\)は可測である□
定理5.7.
可測関数列\(f_n (x), n=1,2,…,がほとんどすべてのxに対して収束するとき、\)
\(f(x)=\lim_{n→∞} f_n (x) \quad a.e.\)
\(で定義される関数f(x)は可測である。\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照
重要なことを述べる。
周知のとおり、微分可能関数\(f\)は連続であり、したがって可測である。
しかし、導関数\(f’\)は一般には連続ではないので、可測であるかどうかは直ちには分からない。
そこで次の定理を見る。
定理5.8.
\(閉区間[\alpha, \beta ]上ほとんど至るところでfが微分可能なら、f’は可測関数である。\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
第3講でカントールの3進集合\(\mathscr{C}\)を導入した。
これを用いると悪魔の階段と呼ばれる関数\(\gamma:[0,1]→[0,1]\)が定義される。
\(\mathscr{C}\)の点\(x=\sum_{n=1}^∞ \frac{c_n}{3^n}, \quad c_n =0 \quad \textrm{or} \quad 2\)に対して、
\(\gamma (x) = \sum_{n=1}^∞ \frac{c_n}{2^{n+1}}\)とし、\(x \notin \mathscr{C}\)に対しては、
\(B_{n,1},B_{n,2},…,B_{n,2^{n-1}}\)の区間(ここで\(c_k=0または2\))
\(B_{n,i} = ( \sum_{k=1}^{n-1} \frac{c_k}{3^{k}} + \frac{1}{3^n}, \sum_{k=1}^{n-1} \frac{c_k}{3^{k}} + \frac{2}{3^n}) \)に対して、
\(\gamma (x) = \sum_{k=1}^{n-1} \frac{c_k}{2^{k+1}}+\frac{1}{2^n}=\frac{2i-1}{2^n} \textrm{ for }x \in B_{n,i}\)と定める。
別の述べ方をすると、
まず第一段階で取り除かれる開区間\(B_{1,1}= (\frac{1}{3},\frac{2}{3})\)をすべて\(\frac{1}{2}\)に送り:
\(\gamma (B_{1,1})=\frac{1}{2}\)
第二段階目で取り除かれる\(B_{1,1}\)の両脇の開区間が左から\(B_{2,1},B_{2,2}\)となるので、それぞれを\(\frac{1}{2^2},\frac{3}{2^2}\):
\(\gamma (B_{2,1})=\frac{1}{2^2}, \gamma (B_{2,2}) = \frac{3}{2^2}\)
さらに第三段階目で取り除かれる開区間は左から\(B_{3,1},B_{3,2},B_{3,3},B_{3,4}\)となるので、
\(\gamma(B_{3,1})=\frac{1}{2^3},\gamma (B_{3,2})=\frac{3}{2^3},\gamma (B_{3,3}) = \frac{5}{2^3}, \gamma (B_{3,4})=\frac{7}{2^3}\)とし、以下同様にして進めると下記の図のようになる。

\(\gamma\)は単調増加の連続関数で、\(\mathscr{C}\)を構成する段階で取り除かれる区間で定数となる。これが悪魔の階段と呼ばれる理由は、1つのステップから次のステップへ移動するのに無限個の段数があるからである。ルベークによる構成ではあるが、カントール関数とも呼ばれている。
\(x \notin \mathscr{C}の周辺で\gammaは定数であるから、\gamma ‘ (x) =0 \textrm{ for } x \notin \mathscr{C}\)である。
別の表現をすれば、\(\gamma ‘ (x) =0 \quad a.e.\)である。
このように微分の値がほとんど至るところで0となる関数を特異関数(singular function)とよぶ。
しかし、\(\gamma は各点x \in \mathscr{C}で微分不能である。\)
実際、どの点でも同じである。
例として、\(x=0を考えたとき、\gamma ‘ (0) = \lim_{h→0} \frac{\gamma(h)-\gamma(0)}{h}\)において、
\(h=\frac{1}{3^n}とおくと\gamma (h) = \frac{1}{2^n}, \gamma (0) =0 であるので右辺の極限は\)
\(\lim_{n→∞}\frac{\frac{1}{2^n}}{\frac{1}{3^n}}=\frac{3^n}{2^n}=∞\)となる。
悪魔の階段\(\gamma\)を用いると、
可測集合の可測関数による逆像は可測とは限らない
ということがわかる。
ここで、\(f(x)=\gamma (x) +x\)とおくと、
\(f:[0,1]→[0,2]\)は連続で、単調増加であるから、1対1である。
\(\mathscr{C}\)を構成する第n段階で取り除かれる開区間\(B_{n,1},B_{n,2},…,B_{n,2^{n-1}}上で\gamma\)は定数であり、
\(fがこれを幅\frac{1}{3^n}の開区間に写すので\)
\(\mu (f([0,1] \backslash \mathscr{C} )) \)\(=\mu (f (\bigcup_{n,i} B_{n,i} ))=\)\( \sum_{n=1}^∞ \frac{2^{n-1}}{3^n}=1\)である。
したがって、
\(\mu (f(\mathscr{C})) = \mu ( [0,2] \backslash ( f([0,1] \backslash \mathscr{C} ))) =1\)
となる。
すると命題4.21から\(f( \mathscr{C} ) は可測でない集合Nを含む。\)
\(S=f^{-1}(N)\)とおくと、\(S \subset \mathscr{C} であるので定理4.2からSは可測である。\)
\(fが1対1であるから、逆関数gが取れる。f(x)に逆にxを対応させる関数がある。\)
すると、\(g:[0,2]→[0,1]\)も強い意味で単調増加でまた連続であるから可測である。
そして、\(N=g^{-1}(S)\)であり、\(gによる可測集合Sの逆像が可測でないこととなる\)
そして\(Sがボレル集合でないことも定理4.15\)からわかる。

