- 内測度、測度、可測集合
- 定義と基本性質
- 測度の性質
- 可測関数
- 可測でない集合
第4講では、測度、可測集合、可測関数について掘り下げます。
外測度に対して内測度\(\mu_*(S)\)を定義するには、様々な方法が提案されています。
最もよく行われる方法を述べると、有界な集合\(S \subset [\alpha, \beta] \)に対して、
\(\mu_*(S) = (\beta – \alpha ) – \mu^*( [\alpha, \beta]\setminus S) \)
そして、\(\mu_*(S) = \mu^*( S) \)が成り立つときにこの共通の値を\(\mu(S) \)と表し測度と呼び、\(S\)を可測集合と呼びます。上式の右辺第二項を左辺に移行すると外測度と内測度のイメージが付きやすいかもしれません。
この方法の問題点を述べると、これは\(S\)が有界でないときの方法は別に考える必要がある。また、これが内側から計測したと言えるのかよくわからない。などなどの問題がある。
そこで、ギリシャ出身の数学者カラテオドリ―Constantin Carathéodory(1873-1950)は、集合\(S\)可測集合の場合、上記の式から次が導けることに注目した。
\(\mu^*( [\alpha, \beta]) = \beta – \alpha = \mu_*(S) + \mu^*( [\alpha, \beta] \setminus S)= \mu^*(S) + \mu^*( [\alpha, \beta] \setminus S)\)
そして、外測度のみを用いて直接測度を定義する方法を提案した。これは内測度を経由せずに求めることができることを意味する。
今日ではこれが最も合理的な方法として考えられている。
集合\(X \subset \mathbb{R} \)に対して、
\(\mu^*( X) = \mu^*(S \cap X) + \mu^*( X \setminus S)\)…①
が成り立つ集合\(S\)を考える。
前講の補題3.4より、
\(\mu^*( X) ≧ \mu^*(S \cap X) + \mu^*( X \setminus S)\)…☆
が本質的である。この式は\(\mu^* (X) <∞\)のときのみに意味を持つ。そこで、\(\mu^* (X) <∞\)であれば上記の式が成立するとき、\(S\)を計測可能な集合、すなわち可測集合と呼び、測度\(\mu(S)\)を
\(\mu(S) =\mu^*(S)\)
によって定義する。
\(\mu^* ( \emptyset ) =0 \)なので、\( \mathbb{R}, \emptyset \)は可測である。
この定義から次がわかる:
定理4.1. \(Sが可測なら、その補集合\mathbb{R} \setminus S\)も可測である。
次は”外測度0″と”測度0″が同義語であることを示す:
定理4.2. \( \mu^* (S) = 0 なら、Sの全ての部分集合は可測であり、測度0である。\)
証明.
\( T \subset Sとし、 T \cap X \subset Sより、\)
\(0≦\mu^* (T \cap X) ≦ \mu^* (S) =0であり、\)
\(X \setminus T \subset X より、\)
\(\mu^* (X) ≧ 0+ \mu^* (X \setminus T ) = \mu^* (T \cap X) + \mu^* ( X \setminus T) \)
で☆が成立する。
補題3.3から次が出る。
補題3.3
(1)\(S \subset T なら \mu^* (S) ≦ \mu^* (T) \)
(2)定数\(c\)に対して\(S+c= \{ x+c : x \in S \} \) とすると\( \mu^* (S) = \mu^* (S+c) \)
定理4.3.
(1)\(S \subset T が可測のとき、\mu (S) ≦ \mu (T) \)
(2)\(Sが可測でcが定数なら\)、\(S+cも可測で \)\( \mu (S) = \mu (S+c) \)である。
(1)を測度の単調性、(2)を測度の平行移動不変性と呼ぶ。
証明.
(1)は自明。
(2)は\(S+cが可測であるという証明がいる。\)
\(いま任意にXをとると補題3.3から、\)
\(\mu^* (X) = \mu^* (X \cap S)+ \mu^* (X \setminus S)= \mu^*(( X\cap S)+c) + \mu^*((X\setminus S) +c)\)
\(=\mu^*((X+c)\cap (S+c))+\mu ^* ((X+c) \setminus (S+c))\)
であり、これを用いると、
\(\mu^* (X) = \mu^* (X-c) = \mu^* (X\cap (S+c)) + \mu^* (X \setminus (S+c))\)であり、
\(S+cは可測である\)□
\(Xの代わりに-X=\{ -x : x \in X \}を用いれば次がわかる\):
定理4.4.
\(Sが可測なら-Sも可測であり、\mu (-S) =\mu (S) である。\)
次は基本的である:
定理4.5. すべての開区間は可測である。
証明.
\(\mu^* (X) <∞となる集合Xを任意に取る。\)
\((r,s)を任意の開区間とする(r=-∞またはs=∞の場合も含む)。\)
\(任意の\epsilon >0に対して、互いに素な、有界開区間( u_n,v_n)を\)
\(X \subset \bigcup_n (u_n,v_n ), \mu^* (X) ≦ \sum_n (v_n-u_n) ≦ \mu^* (X) + \epsilon\)
と取るものとする。
下記を使うと、
補題3.4
集合\(S_1,S_2,…,S_n,…\)に対して、\(\mu^* ( \bigcup_{n=1}^∞ S_n ) ≦ \sum_{n=1}^∞ \mu^* (S_n) \)
上記の補題3.4を用いて、
\(\mu^* (X \cap (r,s)) + \mu^* (X \setminus (r,s) )\)
\(≦ \mu^* ( \bigcup_n (( u_n,v_n) \cap (r,s) )) + \mu^* (\bigcup_n((u_n,v_n) \setminus (r,s)))\)
\(≦\sum_n (\mu^* (( u_n,v_n) \cap (r,s) ) + \mu^* ((u_n,v_n) \setminus (r,s)))\)
\(=\sum_n (v_n-u_n)≦ \mu^* (X) + \epsilon\)
ここで\(\epsilon\)が任意であるので☆が成り立つ□
定理4.6. 有限個の可測集合の和集合および共通部分は再び可測である。
証明.
まずは和集合から示す。
2つの可測集合\(S_1,S_2\)に対して、\(S_1 \cup S_2 \)が可測となることを示せば十分である。
3つの場合は、
\(S_1 \cup S_2 \cup S_3 =(S_1 \cup S_2) \cup S_3\)
であるから、2つの場合さえ示せればよい。
それでは示しましょう。任意に集合\(X\)を取る。
まず、\(S_2が可測なので\)☆を\(X \setminus S_1\)に適用して、
\(\mu^* (X \setminus S_1 ) = \mu^* ((X \setminus S_1) \cap S_2) + \mu^* ((X \setminus S_1) \setminus S_2)\)
\(=\mu^* (X \cap S_2 \setminus S_1)+\mu^* (X \setminus S_1 \cup S_2)\)…★
である。上式の数式展開に戸惑いを感じている場合は、\(\setminus\)を-としてイメージして頂ければ理解は出来ると思います。
例えば、\(((X – S_1) \cap S_2)=X \cap S_2 – S_1とか、\)
\((X – S_1) – S_2 = X – S_1 \cup S_2\)みたいに考えればイメージはつくと思います。
さて、\(S_1\)が可測であることを用いて、
\(\mu^* (X) = \mu^* (X \cap S_1 )+\mu^* (X \setminus S_1)\)
\(=\mu^* (X \cap S_1) + \mu^* (X \cap S_2 \setminus S_1) +\mu^* (X \setminus S_1 \cup S_2)\)
\((∵ ★)\)
\(≧\mu^* ((X \cap S_1) \cup (X \cap S_2 \S_1))+\mu^* (X \setminus S_1 \cup S_2)\)
\((∵ 補題3.4.)\)
\(=\mu^* (X \cap (S_1 \cup S_2))+\mu^* (X \setminus S_1 \cup S_2)\)
\((∵ A\cap (B \cup C)= (A \cap B ) \cup (A \cap C \setminus B)) \)
故に\(S_1 \cup S_2\)は可測である。
次に、共通部分については、定理4.1.を使う。これはある集合が可測ならその補集合も可測という定理。
補集合の補集合は元の集合なので以下のように数式展開できる。
\(S_1 \cap S_2 = \mathbb{R} \setminus (\mathbb{R} S_1 \cap S_2)\)
\(=\mathbb{R} \setminus ((\mathbb{R} \setminus S_1 ) \cup (\mathbb{R} \setminus S_2))\)
なので、
\(S_1,S_2\)が可測なら、定理4.1.より、\(\mathbb{R} \setminus S_1 , \mathbb{R} \setminus S_2\)も可測である。
そして\(S_1,S_2\)が可測ならその和集合\(S_1 \cup S_2\)が可測であることを先ほど示したので、同じロジックで\(\mathbb{R} \setminus S_1 , \mathbb{R} \setminus S_2\)が可測ならその和集合の\((\mathbb{R} \setminus S_1 ) \cup (\mathbb{R} \setminus S_2)\)も可測である。
そして、\((\mathbb{R} \setminus S_1 ) \cup (\mathbb{R} \setminus S_2)\)が可測なら、
その補集合の\(\mathbb{R} \setminus ((\mathbb{R} \setminus S_1 ) \cup (\mathbb{R} \setminus S_2))\)も可測である。
そして、\(\mathbb{R} \setminus ((\mathbb{R} \setminus S_1 ) \cup (\mathbb{R} \setminus S_2))\)が可測なら、\(S_1 \cap S_2\)も可測である。これで共通部分は可測であることがわかる。□
定理4.6は可算無限個の集合に対しても成立する:
定理4.7.
可算無限個の可測集合の和集合および共通集合は可測である。
証明.
こちも定理4.6と同様に和集合が示せれば、同様な手続きで共通部分も示せる。
なので和集合について証明する。
可測集合\(S_1,S_2,…,S_n,…\)が与えられているものとし、
\(T=\bigcup_{n=1}^∞ S_n, T_n = \bigcup_{k=1}^n S_k, P_n=T_n \setminus T_{n-1}\)
とする。
定理4.6から\(T_n\)は可測であり、また、 \(P_n=T_n \setminus T_{n-1}=T_n \cup (\mathbb{R} \setminus T_{n-1})\)も可測である。二式から三式目の以降はベン図を書いて貰えばイメージは湧きます。ただ、二式目から三式目に移行した理由は、可測\(T_{n-1}\)である集合の補集合と可測である集合\(T_n\)の共通部分を出せば、定理4.6から可測であることが示せるからである。とにかく\(P_n\)は可測である。
集合\(X\)を任意に取る。
まず、\(T_n\)の可測性から、
\(\mu^* (X) = \mu^* (X \cup T_n)+ \mu^* (X \setminus T_n)\)…②
である。
\(P_nが可測なので★をX= X\cap T_n\)に適用すると、
\(\mu^*(X \cap T_n)=\mu^* (X \cap T_n \cap P_n)+(\mu^* ( X\cap T_n \setminus P_n)\)
\(=\mu^* (X \cap P_n) + \mu^* (X \cap T_{n-1})\)
つまり、\(\mu^*(X \cap T_n) – \mu^* (X \cap T_{n-1})=\mu^* (X \cap P_n)\)
これを\(n=1,2,…\)と置いて、辺々を加える。
\(T_0に関しては測度0と考えると\mu^*(X \cap T_0)=0\)なので、
\(\mu^*(X \cap T_n) =\sum_{k=1}^n \mu^* (X \cap P_n)\)
となる。これを②に代入する。また\(T_n \subset TよりX \setminus T_n \supset X \setminus T\)であることを考慮すると、
\(\mu^* (X) ≧ \sum_{k=1}^n \mu^* (X \cap P_k) + \mu^* (X\setminus T)\)…③
ここで上式の両辺で\(n→∞\)を取ってやり、補題3.4を適用すると、
\(\mu^* (X) ≧ \sum_{k=1}^n \mu^* (X \cap P_k) + \mu^* (X\setminus T)\)
\(≧\mu^* (\bigcup_{k=1}^∞ (X\cap P_n))+\mu^* (X \setminus T)\)
\(= \mu^* (X \cap T)+\mu^*(X \setminus T) \)□
次に③から定理4.8が導かれる。
これは有限和の場合でも、外測度\(\mu^*\)に対して証明できない(この後の命題4.19参照)。
これが外測度を改定して測度を考えなければならない理由である。
定理4.8.
\(S_1,S_2,S_3,…が互いに素(共通部分が空集合)な可測集合であれば、下記が成り立つ。\)
\(\mu(\bigcup_{n=1}^∞ S_n) =\sum_{n=1}^∞ \mu (S_n)\)
証明.
定理4.7の証明の記号を踏襲すると、いまの条件下では\(P_n=S_n\)である。
③で\(X=Tとおくと、Tなどの可測性は既に定理4.7で示されているので\)、
\(
\(\)(∵ S_k \subset T)\)である。ここで両辺を\(n→∞\)とすれば、
\(\mu (T) ≧ \sum_{n=1}^∞ \mu(S_n)\)
である。この逆向きの不等号は補題3.4で示されている。よって題意は満たされている。□
定理4.9.
可測集合\(S,T\)に対して、\(S \setminus T\)は可測であり、\(\mu(S) <∞\)なら、
\(\mu (S \setminus T) = \mu (S)- \mu (S \cap T)\)
特に\(S \supset T\)のとき、
\(\mu (S \setminus T)= \mu (S) -\mu (T) \)
証明.
可測集合\(S,T\)に対して、
\(S \setminus T =S \cap (\mathbb{R} \setminus T)\)
は定理4.6から可測である。右辺を見て頂ければわかる。
そして、\(S=(S \setminus T)\cup (S \cap T), (S\setminus T) \cap (S \cap T )= \emptyset\)
なので、定理4.8から、\(\mu(S)<∞\)のとき、
\(\mu (S)=\mu (S \setminus T) + \mu (S \cap T)\),
i.e. \(\mu (S \setminus T ) =\mu (S) – \mu (S \cap T) \)
である。□
定理4.9を使えば、例えば無理数全体\(\mathbb{P}\)に対して、
\(\mu ( \mathbb{P } \cap [0,1]) = \mu ([0,1] \setminus \mathbb{Q})\)
\(= \mu ([0,1])- \mu ([0,1] \cap \mathbb{Q})\)
\(=\mu ([0,1])=1\)…④
が得られる。
これは前講の外測度0の集合のセクションの\(\mathbb{Q} = 0\)
最後に定理4.10.について述べる。ボレル集合は可測という内容である。
定理4.1、定理4.5、定理4.6、定理4.7から、すべての開集合と閉集合が可測であることがわかる。
またそれだけどなく、可算個の開集合\(U_n\)の交わりや、可算個の閉集合\(F_n\)の和集合
\(\bigcap_{n=1}^∞ U_n, \bigcup_{n=1}^∞ F_n\)…⑤
も可測である。
さらにこれらの可算個の和集合や交わり
\(\bigcup_{m=1}^∞\bigcap_{n=1}^∞ U_{n,m}, \bigcap_{m=1}^∞\bigcup_{n=1}^∞ F_{n,m}\)…⑥
も全て可測である。さらに
\(\bigcap_{l=1}^∞\bigcup_{m=1}^∞\bigcap_{n=1}^∞ U_{n,m,l}, \bigcup_{l=1}\bigcap_{m=1}^∞\bigcup_{n=1}^∞ F_{n,m,l}\)…⑦
も可測であり、同じに繰り返していくとまた可測である。このようなプロセスで得られる集合を総称してボレル集合と呼ぶ。
⑤を\(G_{\delta}\)集合、\(F_{\sigma}\)集合と呼び、
⑥を\(G_{\delta\sigma}\)集合、\(F_{\sigma\delta}\)集合と呼び、
⑦を\(G_{\delta\sigma\delta}\)集合、\(F_{\sigma\delta\sigma}\)集合と呼ぶ。
ここで\(G,F\)はそれぞれ開集合と閉集合を表す。
添え字のギリシャ文字はドイツ語に由来し、
\(\delta = Durchschnitt(交わり), \sigma = Summe(和)\)
である。
閉集合\(F\)は明らかに\(F_{\sigma}\)であるが\(G_{\delta}\)でもある。
\(F=\bigcap_{n=1}^∞ \bigcup \{ (x-\frac{1}{n},x+\frac{1}{n}) : x \in F \} \)
だからである。補集合を考えれば開集合が\(F_{\sigma}\)であることもわかる。
以上より、次がわかる。
定理4.10.
すべてのボレル集合は可測である。
これらの集合の相互関係を表すと次のようになる。

上図を見てわかる通り、可測集合がすべてボレル集合を意味しているわけではありません。
それどころか、可測集合はボレル集合よりはるかに多いことが知られています。
補題3.4、定理4.6、定理4.7、定理4.8をまとめると、次が得られる。
定理4.11.
可測集合\(S_1,S_2,…,S_n,…\)に対して次が成り立つ。
(1) \( \mu ( \bigcup_{n=1}^∞ S_n) ≦ \sum_{n=1}^∞ \mu (S_n) \)
(2) \(S_1, S_2, …, S_n, …が互いに素なら、\mu ( \bigcup_{n=1}^∞ S_n ) = \sum_{n=1}^∞ \mu (S_n)\)
(1)のことを半加法性、(2)を加法性と呼ぶ。
定理4.12.
可測集合\(S_1,S_2,S_3,…\)について、
\(\{ S_n \} \)↗\( S \)
であるなら、
\(\mu (S) = \lim_{n→∞} \mu (S_n) \)
また、
\(\{ S_n \} \)↘ \( S \)
であって、かつ、\(\mu (S_1) < ∞\)であるなら、
\(\mu (S) = \lim_{n→∞} \mu (S_n) \)
証明.
まずは前半について、
\(\mu (S_n ) = ∞ \)のときは明らかに成り立つので、
\(\mu (S_n) < ∞\) for all \(n\)
の場合を考える。
\(S_n \setminus S_{n-1}\)は可測であり、互いに素であるので、定理4.9、定理4.11を用いて、
\(S_0 = \emptyset\)とすると、
\(\lim_{n→∞} \mu (S_n) =\lim_{n→∞} \sum_{k=1}^n (\mu (S_k) – \mu (S_{k-1}))\)
\(=\sum_{n=1}^∞ (\mu (S_n)- \mu (S_{n-1}))\)
\(=\sum_{n=1}^∞ \mu (S_n \setminus S_{n-1}) =\mu (\bigcup_{n=1}^∞ (S_n \setminus S_{n-1}))=\mu (S)\)
が得られる。
次に後半については\(T_n = S_1 \setminus S_n\)と置けば、\(\{ T_n \}\) ↗になるので、前半と同じようにすれば題意を満たすことができる□
定理4.13.
\(S \subset \mathbb{R} \)に対して次は同値である。
(1)\(S\)は可測である。
(2)任意の\(\epsilon > 0\)に対して開集合\(U \supset S\)を\(\mu^* ( U \setminus S) < \epsilon \)と取れる。
(3)任意の\(\epsilon > 0\)に対して閉集合\(F \subset S\)を\(\mu^* ( S \setminus F) < \epsilon \)と取れる。
(4)\(G_{\delta}\)集合\(G \supset Sを\mu^* ( G \setminus S) =0\)と取れる。
(5)\(F_{\sigma}\)集合\(F \subset Sを\mu^* ( S \setminus F) =0\)と取れる。
証明:略、気になる方は参考文献を参照。
定理4.14.
\(\mu (S) >0であればc>0が取れ、(-c,c) \subset S – Sとなる。\)
ここで述べているのは\(S – S = \{ x – y : x,y \in S \}\)ということである。
例えば、当たり前ではあるが無理数全体の集合\( \mathbb{P} \)に対しては、
\( \mathbb{P} – \mathbb{P} = \mathbb{R}\)が成り立つ。
証明 : 略、気になる方は参考文献を参照。
可測集合\(E\)上で定義された関数\(f:E→ \mathbb{R}\)が可測関数であるというのを、
任意の\(c \in \mathbb{R}\)に対して、
\( \{ x \in E : f(x) > c \} = f^{-1} (c,∞) \)
が可測集合であることと定義する。
開集合が可測集合であるので連続関数は全て可測である。
上式は違うように述べることもできて、それは
\( \{ x \in E : f(x) ≧ c \} = f^{-1} [c,∞) \)
である。
なぜこのように述べることが出来るかというと定理4.7を用いることで、
\( \{ x \in E : f(x) ≧ c \} = \bigcap_{n=1}^∞ \{ x \in E : f(x) > c – \frac{1}{n} \} \)
\( \{ x \in E : f(x) > c \} = \bigcup_{n=1}^∞ \{ x \in E : f(x) ≧ c + \frac{1}{n} \} \)
から導き出せるからである。
重要なこととして、下記の定理が成り立つ。
定理4.15.
可測関数による区間の逆像は可測集合である。
つまり、開集合の逆像も可測集合である。閉集合の逆像も可測集合である。
また、ボレル集合の逆像もすべて可測集合である。
証明:略。省略するが基本は上と同じような考え方で、定理4.6と定理4.7を用いて、ルベーク積分その2のセクションでやったことを用いて考えればそれほど難しくはない。気になる方は、参考文献を参照されたい。
ただ、例外も存在する。可測集合の可測関数による逆像は可測とは限らない、ということである。
これはルベーク積分その5でまとめる予定だ。ただ、あくまで基本は定理4.15が成り立つとここでは考えてもらって十分である。ちなみに、上の例外はボレル集合でない可測集合が存在することに関連している。
定理4.16.
可測関数\(f,gに対して、\)
\(定数倍kf,\)、
\(加減f ± g \)、
\(積f ・ g \)、
\(絶対値|f|\)、
は全て可測である。
また、\(g(x)≠0\)のとき\(\frac{f}{g}\)も可測である。
証明:略.気になる方は参考文献を参照。
定理4.17.
可測関数\(f_1,f_2,・・・,f_n,・・・\)が与えられたとき、
\(g(x)= \inf \{ f_1(x), f_2 (x),・・・, f_n (x) ,・・・ \}\)
\(h(x)= \sup \{ f_1(x), f_2 (x),・・・, f_n (x) ,・・・ \}\)
で定められる関数\(g,h\)は可測である。
また、単調減少、単調増加する可測関数列\(\{ f_1, f_2,・・・,f_n,・・・ \}\)に対して
定まる関数\(k(x)=\lim_{n→∞}f_n(x)\)は可測である。
更に、可測関数列\(\{ f_1, f_2,・・・,f_n,・・・ \}\)に対して、
\(\varphi (x) = \lim_{n→∞} \inf f_n(x), \psi (x) = \lim_{n→∞} \sup f_n(x)\)
で定まる関数\(\varphi, \psi\)も可測関数である。
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
定理4.18.
可測集合\(E上の可測関数fと定数kに対して\)
\(g(x) = f(x+k)\)
と定義される関数\(gはE-k= \{ x-k : x \in E \}\)上で可測である。
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
可測でない集合について考える。
可測でない集合を見つけるのはかなり難しい。
つまり、ほとんどの集合は可測集合と考えても差し支えないと考えられる。
なので、可測でない集合については目を瞑ることにしよう、と言いたいところだがそうもいかない。
ここでイタリアの数学者Giuseppe Vitaliが提案した構成法について述べる。
Vitaliの構成は次のとおりである。
(0,1)に属する実数全体をグループ分けする。
2つの実数\(x,y\)が同じグループに属するというのを\(x-y\)が有理数であることと定める。
グループ分けの例として下記がある。
(0,1)内の有理数全体\( \mathbb{Q} \cap (0,1)\)は1つのグループを形成する。
\(\sqrt{2} +(有理数)\)の形の実数も1つのグループを形成する。
\(\pi +(有理数)\)の形のものグループを形成する。
それぞれのグループは可算個の実数からなり、したがって測度0である。
重要なこととして、どの2つのグループも互いに素である。また、(0,1)内のどの実数もいずれかのグループに属している。
そこでそれぞれのグループから1つずつ実数を取り出すこととして、
その全体を\(\mathscr{N}\)と表すことにする。
これが可測でないのである。
\(\mathscr{N} \subset (0,1)から明かに\mu^* (\mathscr{N}) ≦ 1\)である。
有理数\(qに対して、\mathscr{N} +q= \{ x+q : x\in \mathscr{N} \}\)を考える。
すると、\((\mathscr{N}+q) \cap (\mathscr{N} + q’ ) = \emptyset \) for \(q≠q’\)である。
実際に確かめると、この集合の交わりに実数\(z\)が属していたものとすると、
\(z=x+q=y+q’\) for some \(x,y \in \mathscr{N} \)であり、
\( x-y =q’-qより x≠yかつx-yは有理数である。\)
これは相異なる数\(x,y\)が同じグループに属することになって\(\mathscr{N}\)の定義に反する。なので、この集合に交わりはないことになる。
\(Q’= \mathbb{Q} \cap (-1,1)\)とすると、
\( (0,1) \subset \bigcup_{q \in Q’ } (q+ \mathscr{N} ) \subset (-1,2) \)・・・☆
である。
\(Q’は可測集合であるからQ’=\{ q_1,q_2,・・・,q_n,・・・\}\)とすることができる。
それぞれの\( \mathscr{N} + q は\mathscr{N} を qの分だけ平行移動したものであるから \)、
☆の左半分から補題3.3を使うと次のようになる。
補題3.3
(1)\(S \subset T なら \mu^* (S) ≦ \mu^* (T) \)
(2)定数\(c\)に対して\(S+c= \{ x+c : x \in S \} \) とすると\( \mu^* (S) = \mu^* (S+c) \)
上記の補題3.3より、☆の左半分の外測度は下記のようになる。
\(1≦\mu^* ( \bigcup_{q \in Q’ } (q+ \mathscr{N} ))=\mu^* ( \bigcup_{n=1 }^∞ (q_n+ \mathscr{N} ))\)
\(≦ \sum_{n=1}^∞ \mu^* (q_n+ \mathscr{N})=\lim_{n→∞}\sum_{i=1}^n \mu^* (q_i+ \mathscr{N})=\lim_{n→∞} n・\mu^* (\mathscr{N})\)
となる。したがって、\(\mu^* ( \mathscr{N})≠0\)でなければならない。
そこで、\(\mathscr{N}\)が可測であるものと仮定すると、
定理4.3より各\(q+ \mathscr{N}\)は可測である。
可測集合に対して定理4.8が成り立つことを用いて、☆の右半分から任意の\(n\)に対して、
\(3≧ \sum_{q \in Q’} \mu ( \mathscr{N} + q) ≧ \sum_{i =1}^n \mu ( \mathscr{N} + q_i)=n・\mu (\mathscr{N})\)・・・★
である。\(n\)が任意なので\(\mu (\mathscr{N})=0\)でなければならず、
ここに不合理が得られた。
★を検討すると次が得られる。
外測度\(\mu^*\)にとって計測不能な集合というものはないのであるが、
それは長所であり短所でもある。
命題4.19.
外測度\(\mu^*\)に対しては、
\(S_1 \cap S_2 = \emptyset \Longrightarrow \mu^* (S_1 \cup S_2)= \mu^*(S_1)+ \mu^* (S_2)\)
は成り立たない。
\(\mathscr{N}\)を用いると次がわかる。
命題4.20.
\(|f|が可測でもfが可測とは限らない。\)
証明.
\(f(x)=\begin{cases} 1 \qquad \textrm{for} \quad x \in \mathscr{N} & \\ -1 \qquad \textrm{for} \quad x\notin \mathscr{N} & \end{cases}\)
を考えると自明である。□
命題4.21.
もし\(\mu(S)>0なら、Sは可測でない部分集合を含む。\)
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
命題4.22.
可測集合\(S \subset \mathscr{N} \)の測度は0である。
証明.略、気になる方は参考文献を参照。
最後に、補足になるがVitaliの構成は選択公理と呼ばれるものを仮定しないと正当化されない。
この公理は無限個の集合から1つづつ要素を取り出してくることに関係する。
ここでは詳しく述べないが気になる方は参考文献を参照されたい。

