- 集合の復習
- 像と逆像
- 上限下限と最大値最小値
- 上極限・下極限
- 単調列
- 無限個について
- 有理数と無理数の分布
- \(\epsilon – \delta \)法とリーマン積分
測度について話す前に、いくつか復習しておくべきことがある。この章はそういった準備の章である。
なのでわかる方はスキップして貰って構いません。
それでは集合について話します。集合とはものの集まりです。つまり、ものの集まりを数学的にどのように表現するかというところをさくっと解説していきます。
ある集合Aに要素xが属することを
\(x\in A\)または\(A\ni x\)
と表します。
否定形は\(x\notin A\)または\(A\not\ni x\)と表します。
集合Aの一部を部分集合と呼びます。A自身もAの一部と考え、部分集合であります。
A以外の部分集合を真部分集合と呼びます。
BがAの部分集合という表記を下記のように表します。
\(B \subset A\)または\(A \supset B\)
否定形は\(B \not\subset A\)または\(A \not\supset B\)と表します。
真部分集合は下記のように表します。
\(B \subseteq A\)または\(A \supseteq B\)
集合と要素を混合しないようにして頂きたいです。
集合について話すとき、{ : }で表記されることがありますが、これは{ x: xの条件が記載 }と書くことで集合xについて記載しているのです。
例えば、\(\{x:P(x)\}\)={条件\(P(x)\)を満たす\(x\)の全体)を意味しております。
\([u,v]=\{ x:u≦x≦v \},(u,v) =\{x :u < x<v \}\)
その他に、
実数全体の集合を\(\mathbb{R}\)
有理数全体の集合\(\mathbb{Q}\)
無理数全体の集合\(\mathbb{P}\)
と表すことにします。
\(\mathbb{R} = \mathbb{Q} \cup \mathbb{P}\) また \( \mathbb{Q} \subset \mathbb{R}\)、\(\mathbb{P} \supset \mathbb{R}\)
と表現します。ここで\( \cup \)を和集合、\( \cap \)を共通集合と表します。
集合A,Bが\(A \cap B = \emptyset \)のとき、互いに素と呼びます。
次に集合が沢山あるときの取り扱いについてですが、添え字を用いて、
\(A_{\lambda}, \lambda \in \Omega \)
とあらまします。それぞれの和集合と共通部分は以下のように表します。
\(\bigcup _ {\lambda \in \Omega}{A_\lambda}\)\(= \bigcup \{ A_\lambda : \lambda \in \Omega \}\) \( = \{x : x \in A_{\lambda}\) for some \(\lambda \in \Omega \} \)
\(\bigcap_{ \lambda \in \Omega}{A_\lambda} \)\(= \bigcap \{ A_\lambda : \lambda \in \Omega \}\)\( = \{x : x\in A_\lambda \) for all \( \lambda \in \Omega \} \)
その他に二つの集合A,Bに対して、BのAにおける補集合と呼ばれるものは下記のように表します。
\( A \setminus B = \{ x: x \in A \) but \( x \notin B\}\)
一昔前は補集合のことを差集合と呼んでA – Bみたいな表し方もしていたみたいです。

一般に関数\(f:X→Y\)が与えられたとき、\(A \subset X, B \subset Y\)に対して、
\(f(A)= \{ y \in Y : y= f(x)\) for some \( x \in A \} \)、
\(f^{-1} (B) = \{ x \in X : f(x) \in B \} \)
と表します。
それぞれ\(A\)の\(f\)による像、\(B\)の\(f\)による逆像と呼びます。
次に、
\(A,A’ \subset X\)、\(B, B’ \subset Y\)、また各\(\lambda \in \Lambda \)に対して、\(A_{\lambda} \subset X\)、\(B_{\lambda} \subset Y\)とするとき、次の式が成り立ちます。
\( f( \cup_{\lambda} A_{\lambda} ) = \cup_{\lambda} f(A_{\lambda} )\)
これはイメージがすぐにつくと思います。次に、
\( f( \cap_{\lambda} A_{\lambda} ) \subset \cap_{\lambda} f(A_{\lambda} )\)
について考えます。こちらも\(\lambda = 1,2\)の場合を考えて、下記のような適当な関数で表現するとイメージが付くと思います。

次は、
\( f^{-1}( \cup_{\lambda} B_{\lambda} ) = \cup_{\lambda} f^{-1} (B_{\lambda} )\)
ですが、こちらも式が成り立つのはイメージが付くと思います。
imageが湧かなかったら都度絵を描くことをおすすめします。
さて、次の式は、
\( f^{-1} ( \cap_{\lambda} B_{\lambda} ) = \cap_{\lambda} f^{-1}(B_{\lambda} )\)
です。これも図を使って書くとわかりやすいと思います。

次に、
\(f(A \setminus A’) \supset f(A) \setminus f(A’)\) と\(f^{-1} (B \setminus B’) = f^{-1}(B) \setminus f^{-1}(B’)\)
が成り立ちます。こちらも同様に図をかけばイメージが付くと思います。
集合Aが有界であるとは、定数r,sに対して、
\(r<x<s\) for all \( x \in A\)
が成立することをいう。
これが左半分だけなら、\(r<x\) for all \(x \in A\)と表し、下に有界といいます。
右半分だけなら、と上に有界といいます。
ここで集合Aの上限と最大値について説明します。
例えば、
\(A= \{ \sin x < \frac{1}{2} \)かつ\( x< \frac{2\pi}{3} \}\)
さて、この時のxの上限supremumはsupAと表すと、
\( \sup A = \frac{\pi }{6}\)
となる。
上限の正確な定義\(\sup A=t\)は、
\(x ≤ t \) for all \( x \in A \), かつ , 数列\(x_n \in A\) が取れ\(\lim_{n→∞}x_n=t\)
のことである。
上限と最大値の違いについては、集合Aの中にその値が属していれば最大値、属していなければ上限という言い方をします。
つまり、上に有界な集合は最大値は存在するかわからないが上限は必ず存在します。
下限infimumについても同様に\( t= \inf A\)と表すと、
\( x ≧ t \) for all \( x \in A\) , かつ, 数列\( x_n \in A\) が取れ\( \lim_{n→ ∞}x_n = t\)
つまり、下に有界な集合は最小値は存在するかはわからないが下限は必ず存在します。
これらのことから、
単調増加関数は∞に発散するか、有限の値に収束するかの二択。
単調減少関数は-∞に発散するか、有限の値に収束するかの二択。
と考えられております。
検証は省略しますが、下記の性質もあります。
\(\sup (A+B) = \sup (A) + \sup (B) \),
\( \inf (A+ B) = \inf A + \inf B \),
\( \sup (-A) = – \inf A\)
ただ、最後の式だけ、気になるので検証しておきます。
\(- \sup (-A)\)は\(A\)の\( \inf A\)下限であることを示す必要があります。
任意の\( a \in A\)に対して、\( -a ≦ \sup (-A)\)を考えると、
\( – \sup (-A) ≦ a\)となります。
次に、\( – \sup (-A) \)が集合\(A\)の下限の中で最も大きい値であること示せればよいから、
任意の\(A\)の下限\(\inf A = b\)は、任意の\( a \in A\)に対して、
\( b ≦ a\)を満たすので、\( -a ≦ -b\) を満たします。
これは\(-b\)が\(-A\)の上限になることを意味します。
つまり、\( \sup (-A)≦ -b \)を得ます。
これより、\(b ≦ – \sup (-A) \)とわかります。
以上より、\(- \sup (-A) \) はもっとも大きいAの下限、
つまり、\( \inf A = – \sup (-A)\)を意味します。□
さて、最後に集合\(A\)で定義された関数\(f\)についてですが、関数\(f\)が有界であるとは、
\( r<f(x)<s\) for all \( x \in A\)
となる定数\(r,s\)があることである。
このとき、定義域\(A\)が有界であるか否かは無関係である。
もちろん、上限、下限も同じように定義されます。
例になりますが、こちらは\(f(x)= \tanh x\)を考えたときのグラフになります。
定義域を無限開区間(-∞,∞)において最大値も最小値も存在しないが、上限が1、下限が1であることがわかります。

数列について考えます。
極限の概念を考える際、数列の項が∞の方向へ進んだときの状態を調べるのに有効である。
しかし、前のセクションでも述べた通り、いつも極限値が存在するとは限らない。
そこでいつも存在する極限として上極限・下極限を考える。
数列\(\{ c_n \} \)が与えられたとき、
\( x_n = \sup \{ c_n , c_{n+1} , … \} \)
を考える。
数列\(\{ x_n \} \)は有限の値に収束する、または、±∞に発散するのいずれかである。
この極限を上極限とよび\(\limsup_{n→∞} c_n = \lim_{n→∞} x_n = \lim_{n→∞} ( \sup \{ c_n, c_{n+1},… \}) \)
である。
下極限も同様に、
\(\liminf_{n→∞} c_n = \lim_{n→∞} ( \inf \{ c_n, c_{n+1},… \}) \)
と定義する。
一般に\(\liminf_{n→∞} c_n ≦ \limsup_{n→∞} c_n \)が成立する。
これは感覚的にもイメージできると思います。
数列が収束するための必要十分条件は\( \liminf_{n→∞} c_n = \limsup_{n→∞} c_n < ∞ \)となる。
共通の値としては\(\lim_{n→∞} c_n\)となる。
また以下は証明はしないが成り立つ式である。
\(\limsup_{n→∞} (k+c_n)= k+\limsup_{n→∞} c_n\),
\(\liminf_{n→∞} (k+c_n)= k+\liminf_{n→∞} c_n\),
\(\liminf_{n→∞} (-c_n)= -\limsup_{n→∞} c_n\)
関数の極限については同様の考察をする。
\(x=c\)の周辺で、
\(\{ f(x) : | x-c| < \frac{1}{n} \} , n=1,2,…\)
の上限と下限を用いて、
\( \limsup_{x→c} f(x)= \lim_{n→∞} ( \sup \{ f(x) : | x-c| < frac{1}{n} \} )\)
\( \liminf_{x→c} f(x)= \lim_{n→∞} ( \inf \{ f(x) : | x-c| < frac{1}{n} \} )\)
と定義し、それぞれ\(x=c\)における上極限・下極限と呼びます。
数列\(\{ x_n \} \)が単調増加して、\(x\)に収束する現象を\(\{ x_n \}\) ↗\( x\)
数列\(\{ x_n \} \)が単調減少して、\(x\)に収束する現象を\(\{ x_n \}\) ↘ \(x\)
と表記します。
集合の列に対しても同様に\(\{ S_n \} _n \)↗ \(S\)と表記します。
これは\(S_1 \subset S_2 \subset …\subset S_n \subset … \) かつ\(S= \cup_{n=1}^{∞}S_n \)
の略記である。
関数列についても
\( f_1 ≦ f_2 ≦ … ≦ f_n ≦… \)であるとは、各\(x\)に対しても、
\( f_1 (x) ≦ f_2 (x) ≦ … ≦ f_n (x) ≦… \)
となることであり、
これも\( \{ f_n \} _n \)↗ または\( \{ f_n \} \)↗
と略記する。逆の方向も同じである。
無限個の要素からなる集合を無限集合と言います。
\(\mathbb{N}\), \( \mathbb{Z} \), \( \mathbb{R} \), \( \mathbb{P} \)はそれぞれ自然数、整数、実数、無理数の全体を表します。
このような無限集合のうち、1,2,3,…と番号をつけてカウントアップできるものを可算集合と呼びます。
なので\(\mathbb{N}\)や\( \mathbb{Z} \)なども可算集合です。
そして、\(\mathbb{R}\)や\( \mathbb{P} \)などの実数、無理数の集合は可算集合ではありません。
詳しく話すと大変なので、簡単な説明だけさせて貰います。
集合の要素数の大きさを濃度と呼ぶことにすると、
\(\mathbb{N}\), \( \mathbb{Z} \)など濃度的には同じです。
\( \mathbb{R} \), \( \mathbb{P} \)は濃度は上記よりも大きいです。
可算集合とは無限個あるけど番号をふっていける程度の無限です。
一方で番号を振っていけない程度の無限が実数や無理数になります。
関数\(f\)を使って、無理数や実数を自然数や整数から表現しようと思っても、
濃度が圧倒的に違うのは何となく感覚的にもわかるのでないだろうか、まあ、そんな感じの理解でいいと思います。
ちゃんと理解したい人は一度専門書に目を通すことをお勧めします。
有理数の全体\(\mathbb{Q}\), 無理数の全体\( \mathbb{P} \)は 実数の全体\(\mathbb{R}\)の中で稠密またはデンス(dense)と呼ばれる特殊な分布をしている。
稠密とはどれだけ狭い幅の区間を取ってきてもその間に要素が存在するっていうことです。
どの相異なる実数の間にも有理数・無理数が無限個みつかると述べることができます。
例えば、ある実数xを考えたとき、これを10進法の小数点展開し( 例えば、\(x=a+b10^{-1}+…+c10^{-n}+…\)と展開します)、
小数点(n+1)以下を切り捨てれば、xとの差が\(10^{-n}\)以下の有理数が得られます。
これに無理数(例えば、\(\frac{√2}{10^{n+1}})\)を足すと、xとの差が\(10^{-n}\)以下の無理数が得られます。
このようにして、どの実数のどれほど近くにも有理数も無理数も無限個存在することがわかります。
ここら辺をわかりやすくまとめた動画がいかにあるので参考にどうぞ☆
極限を考えるとき、\(\lim_{x→c}= d\)と書いて、
\(x\)が限りなく\(c\)に近づくとき、\(f(x)\)が限りなく\(d\)に近づくという意味として考えておりますが、2か所が限りなく近づくというには結構、曖昧な感じがします。
これをもっと丁寧に述べたのが\(\epsilon – \delta \)法になります。
\(d\)の近くを任意に指定したとき、
それに応じて\(c\)の近くが定まり、
\(f\)によって両者が対応する。
これを数式で書くと、
任意の\(\epsilon > 0 \)に対して、\(\delta > 0 \)が定まり、
\( | x-c| < \delta \Rightarrow | f(x)-d| < \epsilon\)
と書きます。これが\(\epsilon – \delta \)法です。
第一章で述べたリーマン積分について\(\epsilon – \delta \)法を用いて正確に述べると、
閉区間\([\alpha, \beta]\)上で定義された有界関数\(f\)がリーマン積分可能であって
\( ( Riemann ) \int_{\alpha}^{\beta} f(x) dx=J \)
であるとは、任意の\(\epsilon > 0 \)に対して\(\delta > 0 \)が定まって、
\( \alpha = x_0<x_1<x_2<\cdots<x_n=\beta\)の最大幅が\( < \delta \)であれば、
対応するリーマン和\(S=\sum\limits_{i=0}^{n-1}f(p_i)(x_{i+1}-x_i)\)についていつでも
\( | S-J| < \epsilon\)
となることである。
次のセクションからついに外測度のお話になります。

